星を継ぐもの

星を継ぐもの 1 (ビッグコミックススペシャル)

星を継ぐもの 1 (ビッグコミックススペシャル)

星を継ぐもの 2 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)

星を継ぐもの 2 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)

星を継ぐもの 03 (ビッグコミックススペシャル)

星を継ぐもの 03 (ビッグコミックススペシャル)

星を継ぐもの 04 (ビッグコミックススペシャル)

星を継ぐもの 04 (ビッグコミックススペシャル)


安定したエネルギーが供給されるようになり地上の戦争や貧困が飛躍的に解消された21世紀後半、国連宇宙軍は月面基地で正体不明の遺体を発見する。極度に脆く崩れやすい遺体を調査するために物体を透視する機械「トライマグにスコープ」の開発者ハント博士は月面を訪れる。宇宙軍の航空通信局局長コールドウェルは堅物の生物学者ダンチェッカーも月面に送り、二人に遺体の調査を依頼する。さっそく調査に取りかかったハント博士は驚くべき調査結果を目の当たりにする。その遺体は人類がまだ洞窟で暮らしていた五万年前のものだった。月面で発見されたことからルナリアンと名付けられたその遺体は、生物学者ダンチェッカー博士の見立てでは現世人類と同じ遺伝子を持つヒトだと判定される。なぜその時代にヒトが月に居たのか。有り得ない時代に有り得ない場所で発見された遺体。その発見が次第に人類の歴史そのものを揺るがす壮大な展開へと広がって行く。

SFの名作「星を継ぐもの」三部作の漫画です。原作はSFでありながらミステリーの要素もあり次第に明確になっていくルナリアンの生態や、それを推理して行くハント博士とダンチェッカー博士の名コンビがすごく楽しかったのですが、その面白さを損なわずに原作を上手くまとめあげていて良かったです。ハント博士がとびっきり男前なのもよかった!惚れたよ(笑)ダンチェッカー博士が小説でイメージしてたそのままなので思わず笑ってしまいました。

小説原作の漫画を読むとその面白さの違いが良くわかるんですよね。例えば1巻冒頭の都市の光が遠ざかり、宇宙に浮かぶ地球のコマから巨大な月の影に隠れる一連のコマの流れ。すごい!まるで映画「2001年宇宙の旅」だ!でも漫画は映画のように連続したコマをただ並べているだけじゃないんですよね。映画は1秒間に24コマの画を均一に表示することで表現するけど、漫画のコマは適切な一瞬が抽出されているんだと思うんですよね。その無駄のなさ、適切さで描かれたコマがちゃんと脳内で躍動する時、すごいなあって思います。それと小説で描かれている空想物の表現がとても楽しい。例えば宇宙船一つとってもその宇宙船に乗っている宇宙人の思想や文化、技術的な背景までをしっかりと盛り込んでいる。ちょっとネタバレになるけど、シャピアロン号のデザインや、ガニメアンの姿は読んでいて感心しました。けっして争うことをせず聡明で思慮深いガニメアンの宇宙船は、極度に皮膚を傷つけるような鋭利な物が苦手な彼らの生態を反映して角張った所が全然ない。それに恒星間移動用と通常移動用の2系統のハイブリッド機関を持つ宇宙船という設定は、彼らの生態が2系統から成るという部分にもかかっているんじゃないかな。(読んでてちょっとにやにやした)ここは小説にはない漫画独自の部分なんだけど、でも原作のSFの部分を大事にするところをちゃんと引き継いでいると思うんですよね。それとガニメアンの姿もすごく納得できる姿なんですよね。羊や馬のような草食動物の優しい賢そうな目と、極端に細い顎(草食だからかな)。パーツにちゃんと寒い惑星で生まれた生物の特徴が備わっているし、全体の印象も「これは異質だ!」っていう感じですごく楽しかったです。

小説は想像の起動装置なんだと思うんですよ。文字の羅列は想像を起動するプログラムのようなものなんじゃないか。それを脳のなかに読み込んで行くことで脳のなかに物語が展開する。それでは漫画はというともう目の前にイメージがある。でも映画のように動かないから、コマとコマとの間は脳が補完するんですよね。その躍動感がすごく楽しいし、小説ほどではないけど台詞は文字として読みこまれる。本当にシャピアロン号が地球を訪れたシーンとか、宇宙空間を飛行するコマとか、動画よりもじっくり堪能できるし、細部もよく書き込まれていてすごく面白いんですよね。ストーリーそっちのけで何回もこのコマいったりきたりしてました。うーんすごい!

原作のストーリーは人類、ガニメアン、コンピュータなど多様な関係性を描いていてとても壮大なテーマであったところを、漫画ではどちらかというと人類の生存競争とガニメアンの罪の部分に焦点を当ててタイトルの「星を継ぐもの」にまとめあげた感じがしました。人類にとってはこれまでの存亡の危機の一つを今回もまた乗り越えたというものであったと思うけど(それでも大変だったよな…)、ガニメアンから見たら自ら招いた過去の悪夢と対峙する機会でもあったんじゃないかな。そういう部分がしっかりと描かれていて良かったですね。