rain


PlayStation 3のダウンロード専用コンテンツのゲームです。

全編に渡って雨が降り注ぎ、少年と少女は雨の水滴に縁取られた半分透明の姿になって互いに助け合いながら、夜の街の中をさまよう、というもの。音楽はドビュッシーの「月の光」をメインに、雨の日の不安や楽しさを様々に表現してとても良かったです。コンセプトアートも暗く優しい絵本風のイメージで、ゲームシーンの中の様々なものが寂しげに雨に打たれている様子はいつまでも見ていたい感じでした。

ゲームシステムについて


風ノ旅ビト」のようなゲーム内を探索していくことが目的のゲームだと思い込んでいたら、それだけじゃなくわりとステルスアクションでした。主軸は「街をさまよう」ことが目的だと思うんですが、ゲームの中でどっちに行っていいか分からない(操作が分からない)ことと、自由に行きたい方向に行く、ということがきちんと分けて考えられているので、心置きなく好き勝手な方向に進んで行けるという部分は非常に快適で楽しかったです。道には迷ってみたいけど、ゲームに迷いたいわけじゃないんだよね。進行上のヒントも親切に出ていて、私はヒントは極力使わないんですけど(下手なくせにそういうとこだけはこだわる)没頭させる手配がよく行き届いているなあと感じました。それとナレーションなどの言語音声が全くなく、画面上に浮かぶテキストによって物語が進行して行く点も良かったです。雨の音をまったく邪魔することがなくて、たっぷりと雨音の中に埋没できるし、文字が画面と重なるのが絵本のようでとても素敵でした。
それとステルスアクションの方は、メタルギアファンの人にはおなじみの「これはこうか!?」というギミックが出てきたのでMGSファンの人はぜひw それはいいとして、こちらからは一切攻撃ができない状況でいかに敵をやり過ごすか、という部分はきちんと作り込まれていると感じました。段ボールは雨で濡れちゃうからねw また雨が降っている場所、降らない場所、水たまりなど単に「雨が降っている」という状況だけでなく、場所ごとに様々に変化する状況の設定も良かったですね。それと敵にやられた時の音がわりと生々しくて驚きました。けっこう痛そうな音するんだよ。ううひどい…w
ゲーム自体が短く(価格設定が1500円)コンパクトにまとまっていながら、これだけの作り込みがぎゅっと凝縮されているとなんだか得した感じがします。もっとこういうゲーム増えるといいなあ。



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ストーリーについて


ここからちょっとネタバレます。






少年が少女を追いかけ、少女が少年に気がつくまでのチャプターは、少年の存在になかなか気づかず、孤独を感じているだろう少女の姿を遠くから見ているのがすごく切なくて良かったです。ていうか少女速いなw 特にうっすらとした月の光が差し込む階段を登って行くシーンなどは印象的でしたね。中盤から二人で協力し始めたチャプターは、サーカスがやってきた街の中を二人で楽しげに走って行くシーンがすごく好きでした。音楽もちょっと楽しそうなんだよ。水をぱちゃぱちゃしながら、声はないけどきゃっきゃしてるみたいで。このへんは少女が先導して進んで行くのでわりと楽に進めたと思います。終盤の少女の家にたどり着いてから人の形をした怪物に襲われ奇妙な構造物の世界に入り込むシーンからが、この物語の一面が現れているように思いました。奇妙な街の世界では倒しても倒しても怪物がその度に蘇って襲いかかってくるんですが、途中からなんだか変だなと思うんですよね。その世界では少年と少女、そしてその怪物しか動いているものが居ないんです。そして少年と少女が離ればなれになって怪物に追われていると、少年と怪物の動きが連動するんです。見ました?奥のブロックで少女が逃げて怪物が追いかけ、手前のブロックで少年がそれを追っていると、怪物の動きと少年の動きが一瞬シンクロするんです。これでだいたい分かると思うんですが、怪物の正体は少年の一面でもあると思うんですよね。そして、最後は怪物に押しつぶされ少年は怪物と一体化していく、ということからもそう言えると思います。雨の中でさまよい、疲れ果ててなにかを喪ってしまった抜け殻のようなもの。それがこのゲームの冒頭からずっと追いかけてきた怪物の正体なのではないかと思います。
そういう明確な言葉ではなく、イメージやアート、音楽やゲームデザインをフルに使って伝える部分はとても良かったのですが、なにかもう一歩足りない、そんな感じもしました。こっちの踏み込みがもう一歩足りなくて読めてないのかもしれないけど。
少年と少女は最後に陽の光の下で再会するというエンディングはとても良かったのですが、あの雨の夜に置いてきた少年と少女はどうしているだろう、と思うんですよね。その最後がやっぱり見たかったのかな。二人はどこに行くでもなくずっとあそこに居るんだろうし、何度でもあの雨の夜に戻ることができる。だからこそこの作品は、短編アニメではなくゲームとして作られたんだと思うんですよね。でも物語としてなにかあの夜にちょっとした落とし所が欲しかったのだろうと思います。