マイノリティ・リポート

あらすじ
未来を予知する3人の能力者〈プレコグ〉によって、将来起こり得る犯罪を未然に防ぐことが可能になった世界。プレコグの視るビジョンから犯罪現場を特定し犯人を確保する犯罪予防局のチーフ、ジョン・アンダートンは多くの推定犯罪者を逮捕する一方、6年前に誘拐された幼い息子の事件がトラウマとなり、その地位を揺るがす危険を知りながらドラッグを使用していた。
プレコグを使った犯罪防止システムが全国的に導入されることとなり、司法省から監査するために派遣されたウィットワーはシステムの完全性に疑問を持ち、アンダートンに敵愾心を露にする。そんな折、新たにプレコグが予知した犯罪を精査していたアンダートンは、その推定犯罪者の名に驚く。そこには「ジョン・アンダートン」、自分自身の名前が刻まれていた。





P・K・ディック原作「マイノリティ・リポート」の映画です。この前SFベストテンを選ぶ時に、そういえば観たけど内容ほとんど覚えてないなあと思って観直しました。このブログの他の記事でも最近言及したしね。


映画について

未来を描く作品にしてはわりと現代と地続きで、普通にGAPが出て来たり郊外のごくごく普通の住宅街だったりするんですが、その現代的な背景に対してパーソナライズされたホログラムの広告が話しかけて来たり、光が不自然にきらきらしすぎていたり(美しくシステマチックな都市を演出している)、乗り物のデザインが尖っていたりして面白かったです。未来感のあるテクスチャを現在に重ねて描いているんですよね。人々は移動に相変わらず自家用車を使うし電車も使うけど、網膜スキャンによって個人認証が完備された世界では改札に相当する機械に視線を合わせることで、自動的に運賃が引き落とされます。その目がぱぱっと光って認証が完了する描写とか、電車の中で読む新聞の写真がさりげなく動画だったりとか、「電車」や「新聞」というありふれた現代の小物をそのままにデザインを拡張しているんですね。
例えば、同じくトム・クルーズが主演した「オブリビオン」は舞台を限定して背景までしっかりとデザインしている作品ですが、こちらは現実に未来を重ね合わせていると思います。そういえばこういう手法で描いた近未来が舞台の作品ってあんまりないような気がしますね。馴染みのある世界に新たなテクスチャが乗ることで見えてくる斬新なビジョンがとても楽しい作品でした。
また、ところどころギャグが織り込まれてるのも面白かったです。元同僚である犯罪予防局の捜査員から逃れるため、捜査員が装備しているジェット装置を取っ組み合いながら奪うシーンでは、住宅街に突っ込みジェット装置の噴射で食卓のお肉が焼けるんですよね。乱闘シーンの必死さと、「あ、お肉焼けた」というほのぼのした感じのギャップですごく笑いました。スピルバーグはなんかそういう変なとこにギャグセンスがあるなあ。


オブリビオン - ここでみてること


ストーリーについて

ネタバレます










原作の3人のプレコグによる多数決システムと、そのうちの異なる予知「少数報告」を巧妙に使ったプロット、またアンダートンの地位を狙うウィットワーという存在の導入など原作のエッセンスをうまく取り入れたストーリーでした。特に推定犯罪者に自分の名前が挙がる、捜査官という自分が犯罪者という自分を発見する、という自己言及は「スキャナー・ダークリー」でも麻薬捜査官がおとり捜査として潜入している自分自身を監視する、という構造と似ていてディックではおなじみの奇妙さだと思いました。この部分がミステリー部分をうまく駆動させているんですよね。
また原作の設定をそのまま使っただけでなく、アンダートンのトラウマを、未来予知として別の世界線を認識するプレコグを使って救済を与える、など原作とは異なる部分もとても良かったです。