宝石の国

宝石の国(1) (アフタヌーンKC)

宝石の国(1) (アフタヌーンKC)



あらすじ
少女のような外見を持つ28人の「宝石」たち。彼らは人のかたちをした結晶であり、砕けても元の姿に戻ることができる不死の存在。月に住み時折宝石たちの世界を訪れる月人たちは彼らを装飾品にしようと襲いかかり、宝石たちはそれを撃退するという戦争を長いこと続けていた。脆弱で戦いには不向きな宝石たちの一人、フォスフォフィライト(フォス)は仲間たちの戦いを横目にくすぶっていた。そんなある日彼は、彼ら28人を統括する「先生」から博物誌編纂の仕事を与えられる。


寂しいからここに居て


まずこの宝石たち、すごく中性的というか成熟していない少女という外見で人称は男性(僕とか俺)です。まあでも性格はおしゃべりが好きだったりお洒落が好きな女の子なので、あんまり僕っ娘という感じはしないかな。そういう萌えはよく分からないのでなんとも言えないけど。表面的にはごくごく普通の女の子たちが直面しているのは無限に続く戦いの世界です。その戦争は両陣営の勢力が拮抗していて、すぐに決着がつくというものではないようです。そういう緊張を強いられる世界の中にあって、それでも彼らの表情はどこか穏やかです。というよりも未来を諦めているようなそういう寂しさがあるように見えるんですよね。死ぬこともなく何万年、何億年という単位の時間の中で生きるということ。変化のない未来はただの今日の繰り返しです。そういう日々の中にあって、一番若いフォスはまだ何かを見つけられると思っている…というか、彼は主人公らしくなく飽きっぽくて投げやりで図々しくて、それはどうだろうね(笑)と読みながら思うんですけど、彼の直感だけはたぶん本当に備わっているものだと思うんですよね。本人もあまりよく分かっていないようだけど。変化のない日々の中から何かを見つけ出すこと、それがフォスに課せられた仕事なのではないかと思います。


永遠とも思えるほど長い時間の中を生きる彼らにとって、仲間は大切な家族であり、家族であるからこそ複雑な感情を抱く相手でもあります。自らの能力が仲間を傷つけることを知っているシンシャは寂しさを抱えながら一人、仲間から離れて生きています。彼の能力を恐れる宝石たちはその心の中まで気遣うことができません。それでもフォスだけは彼に近づこうとするんですね。その孤独をどうにかしたいという想いで。
また、ある事件で身体が変化してしまったフォスをダイアモンドが元に戻そうとするエピソードがあります。それも彼をどうにかしたいという気持ちだと思うんですよね。どうにかすることによって幸せになるかどうかは分からないけど、誰かに幸せであって欲しいと願うきもち。いなくなると寂しいからそこに存在していて欲しいという想い。そういうものが細く張り巡らされているような、そういう漫画じゃないかな、と思います。