- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2012/09/19
- メディア: Blu-ray
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あらすじ
待ち時間は5分だけ。
カーアクションのスタントや自動車工場の整備をしながら夜は強盗を逃がす専門の運転手(ドライバー)の男は、同じアパートに住むアイリーンと心を通わせる。しかしアイリーンにはまだ小さな息子と服役中の夫がいた。釈放された夫とアイリーンは元の暮らしを始め、男は運転技術を買われてカーレースに出場することになる。一時の幸福な時間を良い思い出として二人は平穏な日常に戻ろうとするが、アイリーンの夫の因縁がやがて男が運転手として請け負って来た過去にも波及しはじめる。
まず、冒頭の逃亡シーンがすごい。そうそう、ステルスゲームもそうだけど「逃げる」と「隠れる」の切り替えってこのくらいメリハリはっきりするんだよね。ステルスする時のさりげなさの下に隠した緊張と、エンジン全開で振り切る時の冷静さ。それが車、カーアクションで観られるなんて…あーこういうゲームしたい!ゲームの中でも車の運転下手だけどw面白そうですよね。
それはさておき、この映画は説明的なセリフがほとんどなく(主人公だけでなくヒロインもあまりしゃべらない)少し読み解きが必要な作品でした。その代わり状況や展開はシンプルなのでストーリーに迷うことはなかったんですが、男(名前がなく、クレジットは単にドライバーとだけ表記)とアイリーンの心境は二人の役者さん(ライアン・ゴズリングとキャリー・マリガン)の演技だけなんですよね。ちょっと難しかったけど読み解いたところを書いてみます。
まずはドライバーから。彼はわりとシンプルに、アイリーンとのごくごく平和な暮らしを望んでいたと思います。カーレースに出ることにもあまり興味はなさそうに見えます。この人はすごく高いスキルを持っているし、それを自覚していますよね。カースタント中に急遽横転を依頼されてもソツなくこなせるくらいだし。自分の技術に謙遜も傲慢もなく、自信があるんだと思うんですよね。そしてそのスキルがあるということに、彼自身飽きているのではないかと思います。運転下手な私からするとすごく羨ましいくらいの技術だけど、スキルがあることで彼は幸福になれない。そのことに気づいてしまっているけど、それを手放すことができないでいる。それが強盗の逃がし屋という仕事を請け負っている理由じゃないかなと思いました。
そんな彼は擬似的な家庭を持つ体験をします。たぶん、ここで時計は回り出したと思うんですよね。ただ運転が上手いだけのドライバーが、技術を必要としないただのドライブに危険でも何でもない人を連れて行くということ。彼は技術以外で初めてそういう体験を手にしたんだと思います。このシーンは他の陰惨なシーンとの対比が効いていて、儚げですごく綺麗なんですよね。音楽もとても良かった。
でもこのドライバーの持ち時間はそう長くありません。彼自身のなにがあっても5分だけは待つという信条のように、与えられた猶予はほんのわずかです。その持ち時間が尽きるまでの瞬間瞬間が、本当に切ない。その最も切ないシーンが、エレベーターで交わすキスシーンだと思うんですよね。そして次のシーンでは対比のように残虐なシーンに切り替わる。凄惨の度合いで言ったらリドリー・スコット作品に近い感じがするけど、こちらは血が飛び散ってもどこか乾いている印象がありました。リドスコは心も抉りにくる感じだけどw この美しいものと醜悪なものとの配置の仕方が面白い作品だなと思います。
アイリーンの側から観ると、こちらもすごく切ないストーリーなんですよね。というかこの映画はセリフに気を取られることが少ないので、役者さんの顔をじっくり観る機会が多かったです。キャリー・マリガンはほんと少女みたいだなあとか、鼻のかたちがかわいいなとか観ながらそんなことを思いました。
まあ、それはさておき。
夫のことは愛しているけど、ドライバーに恋をしてしまったんだと思うんですよ。うーん、こういう心情を読むのがほんと下手なんだけど。部屋で二人が何も言わずに微笑みながら見つめ合うシーンや、ドライブ中に重ね合う手、二人が居るシーンは少しだけ温度が高いように思いました。性的なものというよりは、この人とただ居ることがただ嬉しいというシンプルな熱情があるように思うんですよね。少し子どもっぽいけど、それが見ようによっては不良少年のようにも見えるドライバーと、どことなく少女のようなアイリーンの容姿がそういう子どもっぽさをうまく中和させていて、かわいい大人どうしのシーンを成立させていたと思います。なんかかわいいんだよね。
でも彼女には息子も居るし釈放された夫との生活もある。寂しい時に一時だけ側に居てくれた、幸福な時間で終わり、あとは良い思い出にできるはずだったと思うんですよね。けれどそれは深い傷となって忘れ得ない思い出になってしまった。女でも男でも方法は違うけど誰かの心に想いを残そうとするのはやっぱり同じなのかなと思うんですよね。それってずるいけど、わかる気がしますね。