エルフの血脈 <魔法剣士ゲラルト>

エルフの血脈 (魔法剣士ゲラルト)

エルフの血脈 (魔法剣士ゲラルト)


時間がいくらあっても足りない、ボリューム多すぎて2周目やってても新しい展開が出てくる、ゲラルトかっこいい素敵、今のところめっちゃハマってる超大作RPG「ウィッチャー3 ワイルドハント」の原作小説です。
ノベライズではないんですね。小説が先に発表されて、後にゲーム化されたという流れ。なので、ゲームとの違いや似たところを上げてみたいと思います。


まずは物語の鍵となるシリラ(愛称シリ)について。小説ではまだ13歳の女の子でしたが、ゲームの方ではかつて洋ゲーには居なかった(笑)凛々しい美少女でした。そんなに洋ゲーやってるわけじゃないけど、これまでやった作品で女性ってあんまり可愛くなかったんですよね。これが文化の差かあ、と思っていたんですが。まあそれはいいとして。シリは本書のタイトルにもある通り、エルフの血を引き、強大な魔力を受け継いだ女性です。が、幼い彼女はそれを上手くコントロールすることができません。小説ではその血を巡って様々な政治的計略がシリを追いかけ、謎の勢力もその力を手に入れようと暗躍します。そんな孤独で事実上無力なシリを守るのが、魔法剣士ゲラルトを始めとする女魔術師のイエネファーやトリス、吟遊詩人のダンディリオンです。彼ら、彼女らはゲームでも活躍してますね。本作は5部作のシリーズもので、シリの力の本質を解明する端緒までが描かれています。


と、ちょっと話がそれるけど、この物語の世界観というのがファンタジーの割にとても生々しい表現が独特で面白いんですよね。ゲーム始めてすぐに道端に処刑された人がぶら下がってる木があったりして、うわあ…ってなったり。娼婦やそういう方面の風俗は他のゲームでもあるけど、生死観や風俗がシビアに描かれているんですよね。
で、小説でちょっと面白い視点だなと思ったのが、シリの力とシリ自身の女性としての成長が一緒に描かれている場面。シリはゲラルトに窮地を救い出されてから、男ばかりのキール・モルヘン(ケィア・モルヘン)で育ちます。ゲームでも冒頭でちらっと出てきた場面ですね。家庭を持っている男性は一人もいないし、成人した女性としか付き合ったことのない人たちばかりなので、誰もシリが初潮を迎えたことに気づきません。シリも周りに手本となる成人女性がいないので、ちょっと体調悪いな…くらいしか理解できていなくて、なんていうかゲラルトと仲間たちに怒りがわきましたよね(笑)その事実をシリから打ち明けられたトリスが「あのバカどもぶっ殺す!」と憤ったのが良かったわ。内に秘めた力がどんなものか分からないシリは、普通の女の子が経験する女性の身体の変化さえも危険なものになりかねない。ファンタジーの制約と人間のリアルな生態を上手く結びつけた、なかなか興味深いエピソードでした。


後半、キール・モルヘンを出て今度はイェネファーを教師役にシリは魔法の使い方を学び始めます。が、なかなか上手くいかない上に、シリは住んでいる女子寮を度々訪れる男の子がちょっと気になるお年頃。女子寮のシリのルームメイトたちも魔法を学び始めているんですが未熟な彼女たちは「処女は魔法を使えない」という噂を真に受けていて、気になる相手を意識しています。シリとイェネファーは授業の合間にその話題について語り合うのですが、それがすごくいいんですよね。シリが無邪気に「セックスする相手を見極めるにはどうすればいいの?」と問いかける、イェネファーの答えが素敵。イェネファーの、未来の大人の女性としてのシリと、大人として対等に話す姿勢が美しいなと感じました。ゲームではゲラルトとシリの擬似的な父と娘の関係を描いてたと思うけど、イェネファーはあまり母親って感じじゃないし、こういう関係の方がイェネファーらしいな、と感じました。


こんなとこかな。ところでこれ5部作なんだけど、このあとのシリーズ日本語訳出るんだろうか…。出てほしいなあ。