渇きの海

渇きの海

渇きの海


SF作家、アーサー・C・クラークの作品。人類が地球を飛び出し月に進出した未来、月の海を遊覧する観光船が巻き込まれるパニックを描いた作品です。
まずはこの作品が書かれたのが、人類初の月着陸以前だということ。冒頭で執筆当時を振り返った前書きにもある通り、月の一部はとても細かな砂粒に覆われていると思われていたそうです。固形でありながら、あまりに細かすぎて水のような流体と同じ振る舞いをすると推測されていたんですね。で、この作品はその砂でありながら水のような「海」に沈んだ観光船と、その中に取り残された二十二人の救出を描いています。いやー二十二人て。読みながら考えてたのは、「火星の人」。あっちは一人でその孤独によって狂いそうな正気をがんばって保つユーモアが力強い作品なんだけど、二十二人の正気を保つもめっちゃ大変なんですよね。でもそこを主人公の若い船長を中心として、魅力的なキャラクターが支えたり、たまに足をひっぱったりとなかなかスリリングに展開していて面白いんですよね。
そしてなによりこの作品、めっちゃSFなんですよ。確かに月にはそんな「海」は存在しないことが科学的事実として明らかになったんだけど、その仮定を基盤にがんがん想像を、いや!外挿を(言いたかったw)広げていく描写がすごい。ほんとクラークすごいさいこう。なんていうか、ものすごく滋養のある食べ物をじっくり噛んで味わう食事みたいにめっちゃ美味しいんですよね。
そういう意味でSF本来の楽しさと、パニックもののスリルを映画のように味わえる作品でした。