零號琴

SF作家、飛浩隆さんの最新作。既刊はグランヴァカンスや象られた力などを読んでて、文芸的に想像させる力が半端ない作品が多いかな。食事のシーンとかめちゃくちゃ美味しそうに書く、ってだけじゃなくてそこに別の感覚、ちょっと性的なものも含めて読み手の脳内シアターの解像度をグリグリ上げてくる、まあいい意味でとても暴力的なフィクション、て感じです。個人的に。

 

で、これです。これまでの作品と比べると、お話がこなれているというか、あまりSF的な読み解きも暗黙の定義もないのでさほど迷子にならずにすとんと読めてしまうという印象。あれ、この人の作品ってこんな読みやすかったっけ?という感じで、それほどSF的な面白さはないかも。

や、でも音楽を題材にしたSFとしてはそれなりにネタぽいところはあるか。。うーん。そういう作品なのでSFを読む、というよりキャラクター小説のような感じで読んでました。

 

というわけで「キャラクター」が多分この小説のSF的な大きなネタ、なのかなーと思います。

お話の途中で「アレ?これは?」っていうところがだいたい20ヶ所ほどあるんだけど、これ人によってはもっとたくさん「あれっ?」ってなると思うんですよね。変なところに別のフィクションへのリンクがさりげなく(時にあからさまに)仕込んである。映画「レディ プレイヤーワン」が正攻法で堂々とフィクションをクロスオーバーしていたのとは異なり、この作品では二次創作のようなこっそりとした雰囲気があちこちにあるんですよね。もちろん、作品内で著作権に反することはないんだけど。

そんな風にどこかオリジナルではないようなお話を登場するキャラクターは強いられるわけです。

なんというか、これを読んでいるとお話に囚われているキャラクターたちの自由はどこにあるのかなあとか、そういう風に思うんですよね。

二次創作というのは、キャラクターの側から見るとオリジナルからの逃避先でもあり、どこまで行っても逃げられないフィクションの無間地獄のようでもあるのかな。

 

そういう、フィクションや作りものの世界の側からの視点という点では、既刊のグランヴァカンスに似てると思うんですよね。これはAIの人格から見た世界のお話だったし。

 

ちなみにキャラクターの中で印象的だったのは、トノムボロクでした。

この作品は場面場面で実写の映画のようでも、アニメのようでも、漫画のようでも、伝統的な美術画のようでも、多彩に想起させるメディアを切り替えてくるんですが、トノムボロクは実写のイメージがなぜか大泉洋さんだったんですよね。

なんか、すごくボヤいてるのシーンが多かったからかなあ。。で、頭はもじゃもじゃしてるイメージだったのが、長髪らしい記述に出くわして変なとこで笑ってしまったのが、個人的に印象的でした。やー、これ個々のオタク歴によって想起するものめちゃくちゃ変わるんだよ、ほんと。

 

 

零號琴

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