ずいぶん前になってしまったけど、映画「パラサイト」を観ました。ポン・ジュノ監督の作品は「殺人の追憶」と「スノーピアサー」を観たかな。
一見分かりやすい展開や構造を持ちつつ、どこかとらえどころのない、一筋縄ではいかない映画を作る人、という印象です。
んで、パラサイト。一見分かりやすいけど。けど、これはなんなんだろう、ととてもモヤモヤする余韻が巧みなんですよね。映画見終わって、あー面白かった!で終わらせない。「殺人の追憶」もそうだけど観客側に「これってどう?」と問いかけるような、しかもなかなかの強さの直球でぶん投げてくる(笑)ところが個性的で魅力だなあと思うんですよね。この映画もそう。格差社会です。確かに。映画の中でも上と下と、建物の構造をうまく組み込んでいたりして分かりやすい。でもそこから「格差をどうにかしよう!」とかそういう安直なテーマではないと思うんですよね。映画の展開上、格差構造の破壊も盛り込まれていたりもするけど、それが社会的に大きな一石を投じるというわけでもない。なんだろ、これってこんなになっても壊れなかった家族の話なのかも。
なんだかんだ文句や不満があっても上の家族も下の家族も仲がいいんですよね。いろいろなものがぶっ壊れる映画なんだけど家庭は崩壊しない。親と子の絆がずっと続いていく、という終盤は幻想的ですらあるけど、だからこそかな。家族の強さが際立っているように思うんですよね。
思えば「殺人の追憶」にしても連続殺人事件のミステリーを絡めながら青春映画のように仲間や友達とのエピソードに注力していて不思議な雰囲気の映画だった。
これも格差社会という表のテーマを持ちながら、家族のつながりというのが裏テーマだったのかな、と思いました。
それにしても好きな韓国人俳優のソン・ガンホさんがとても良い演技をされていて見事でした。あの子供の誕生パーティーに巻き込まれた時の真顔と目がすごかった。そうだな、ああいう時、人間は、貧乏人はあの顔をするよな、と納得感が溢れすぎて。
いい映画でした。
ここからちょっと別の話題なんだけど、この映画がアカデミー賞を受賞した時に伊藤計劃さんのこの映画評を思い出していました。
韓国映画。すぐ隣の国の映画事情を、ぼくはほとんど知らない。(中略)でも、これからこういう映画が作られつづけるならば、これまでのように鈍感なままではいられないかもしれない。
(伊藤計劃記録 Running Pictures / Cinematrix シュリ(2000)より抜粋)
これは今から十年!も前に韓国映画「シュリ」を鑑賞した伊藤さんの文章です。
韓国映画が流行りだしたの、この映画が公開された前後くらいだった気がする。その頃から分かる人には自明のことだったのかも。先日の受賞は、個人的にはこの視線の先の出来事のような気がしたんですよね。ああ、伊藤さんすごいなって。
映画評も独自の視点で解きほぐしていく文章の巧みさが面白いテキストなのでおすすめです。これ読むと映画見たくなるんだよな。。