最近読んだ本とか

暑くなってきました。

去年も思ったけど梅雨ってもっとジメジメしてなんでもすぐにカビだらけになっちゃうイメージがあったけど、意外とそうでもないんだね。

時々晴れ間もあるしずっと降ってるわけでもないし。とはいいつつエアコンがなんとなくカビくさい感じになってきたけども。たまに掃除とかしてるけど、どーしたらいいんだコレ。

 

そんなことはさておき、相変わらずSFを読んでおります。三体、まだ続き読んでないけどめっちゃ面白そうだな。中国SFも盛り上がっているけど、ここ最近国内のなかでも百合SFというものを読んでました。

ちなみに百合SFのイメージは『女性どうしが深い関係になりつつ、それを包む世界にSF的な仕掛けやネタがある』というくらい。あってる?まあ定義はあんまりよく分からないけど百合とSFがどうくっついてるのかってところが大事なのかな。その辺をちょっと思いながら読んだ感想などまとめます。

 

 ツインスター・サイクロン・ランナウェイ

長編SF「天冥の標」など有名な小川一水さんの読み切り作品。とにかく読みやすいのにSFがきっちり基盤を固めていて、まず間違いなく面白い作家さんです。

んで、これもすごく読みやすくてキャラもすごく立っててほぼ一気読み。ちょっとだけ内容を説明すると、辺境の惑星周辺に暮らしている人類は、惑星中心部から出てくる鉄鋼資源などの塊である「魚」を獲って暮らしていて、その「漁船」(という名の宇宙船) の操縦手(ツイスタ)の女の子と、漁船の形状を航行に合わせて自在に変形させるデコンプという役目のいわゆる女房役の子との関係を軸に、世界の秘密やら人類が抱えている問題やらがあっちこっちから降って湧いては片付いたりするお話。百合の当事者だけの閉じた世界だけでなく、周辺の人々の過去や秘密、理解し得ない人たちとの歩み寄り、といった世界が開かれていく方向にお話が進んでいくのが小川さんらしくて好み。

女房役のテラが相棒のダイオードとの関わりのなかで次第に自分自身の在り方を自分で認めていく展開とか読み応えがあったなあ。逆にダイオードが心を開いていく過程とか時々暴走しちゃうシーンとか勢いとドラマがあってすごく面白かった。ただそれが百合であるべき、というものはあまり感じられなくて「この二人だからこその関係」という印象の方が強いかも。

SF的には今ちょうど大学の講義で初歩的な物理をやってて、船の軌道とか回転運動とかその辺がきっちり書き込まれているのがちょっとずつ理解できて楽しかった。角運動量保存則が身に染み付いているなんて羨ましすぎる(笑)

SFと百合がガッチリ結びついているというよりも、百合もSFもふんわり時々ハード、っていうコントラストが楽しい作品でした。絵的にもカワイイからアニメ化とかしないかなー。

 

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

 伴名 練さんの作品はこの本にも収録されている「美亜羽に贈る拳銃」くらいしか読んでないかも。多分。お話に不思議な魅力があってついつい読み耽ってしまった。これもほぼ一気読み。

短編集のほとんどの作品に女性どうしの関わりが描かれているけれど、全てが百合という訳でもないと思うんですよね。というかどの辺からどの辺までが「百合」ってやつなのかよく分からないけど、友情+αくらいからトラウマレベルまですごく範囲が広い。

 印象的だったのは「シンギュラリティ・ソヴィエト」。超AIによってアメリカを出し抜いた歴史改変的なソヴィエトで暮らす女性とアメリカから訪れたスパイとの諜報的な攻防の中で明かされる、国家の歴史の真実と女性のトラウマのような過去が交錯する作品。これは百合的な部分は抑えめに、まるで「1984年」のようなビッグブラザー的なAIに支配され、同志は労働者現実とか党員現実とかそれぞれのレベルに合わせた添加現実を強制される、というディストピアSFとサイバーパンク的な部分がすごく良かった。

表題作の「なめらかな世界と、その敵」も並行世界を同時に生きる、なんて神林長平の小説みたいな世界で女子高生の爽やかな友情(+α?)を描いたお話。シンプルなストーリーながらも並行世界の万華鏡を覗いたようなキラキラした風景と十代の女の子たちが過ごす一瞬ごとの煌めきが上手く心象風景のように重なっていて脳内の絵的にすごく鮮やかで楽しかった。

でもすごく上手に百合とSFの両立が図られているんだけど、少し繊細すぎるのかも、と思うところもあったなあ。作風ではないかもしれないけど、なにか飛び抜けてエモーショナルな部分が読みたかったのかも。

 

どちらも読みやすくてちゃんとSFしてて面白い作品でした。それにしても百合はまだまだよく分からないねえ。

 

以下ネタバレと余談

 

 

 

 

 

 

 

 

上に挙げた「シンギュラリティ・ソヴィエト」。主人公の女性と回想の中に登場する義姉は、AIに補強された新兵とベテラン兵士という関係でどちらかが死ぬまで戦闘機での戦いを強いられる、という壮絶なものでした。結局、主人公が生き残り義姉は亡くなるのですが、最後まで彼女は身内の情に負けたのではなく純粋に機械対人間の戦いに負けたのだと信じていて、同情ではなく相手の技能やプライドを尊重するこの部分が二人の並々ならぬ関係を印象付けていると思うんですよ。

で、この関係を読んでてふと思い出したのがゲーム「メタルギアソリッド3」におけるザ・ボスとスネークのこと。こっちの二人は男女ではあるけれど、恋愛感情や性欲のようなものがまるでなくて恋人とも家族ともなんとも言えない関係なんですよね。スネーク曰く「十年生死を共にした」最愛の女性。もし、スネークが女性だったら百合という関係になるのか、とちょっと思ったのでした。ちょうどこの幼い新兵と古参の兵士のように。でも、それもやっぱりこの二人にしか成立し得ない関係なのかも。声を聞いただけで「痩せたようね」と看破するザ・ボスと、生涯でただ一度その墓前で涙を流したスネークのように。

それぞれの関係が「この人でなければこんな感情は持ち得ない」というものであれば、もしかしたら百合はもっと大きな概念であるかもしれない。なんてね。

 

そういやMGS3に百合っぽい花が出てくるけど、あれはオオアマナだ。