モザイク画の闇:闇の精神史 闇が付くタイトルの本は感想書きにくいけど面白かったっていうこと

闇の精神史を読みました。

 

 

続編というわけではないけれど「闇の自己啓発」も読んでたので(こちらは複数著者の一人ですが)いやーこちらもすごく読み応えがありましたね。「闇の自己啓発」もそうだけどここで使われる「闇」は、物理でいえばダークマターとかダークエネルギーの方の「闇」。現象として見えている(観測できている)社会的、精神的な事象に対して不可視の力学、イデオロギーが想定される、という意味での「闇」という風に捉えています。別にカッコいい?方の闇ではないようです。

そういう視点なので、世界的な紛争、インターネット社会の問題、ITと人間の相克といった現在進行形で表立って問題になっている事象の解説ではなく、そこにどんな力学が関与し得るかが述べられているのですが。。こんなエピソードがそこに繋がる!?って感じでめちゃくちゃ面白いんですよね。すごく精巧な知的ピタゴラスイッチみたい。

たとえばレーニンの死体保存を起点としたロシア宇宙主義とか。あ、ちなみにこの辺は最近ロシア文学の「カラマーゾフの兄弟」を読んでて、権威者(カラマーゾフではゾシマ長老)は死してもなお形をどどめる(腐敗しない)という思想がフィクションの話じゃなくて、リアルにあるんだと思ってすごく興味深かったなぁ。あと、このロシア宇宙主義が「闇の自己啓発」の方では、なぜか漫画の「宝石の国」に繋がるという(笑)

まあそれは良いとして、特に面白かったのは4章 『メタバースは「解放」か?』

サイバーパンクSFではおなじみ、身体から解放されるユートピアとしてのメタバースサイバースペース)を論じつつ、そこに逃れられない身体性やサイバースペースにおける権威(誰がルート権限を持っているのか、みたいな)といったディストピア的な視点を差し込み、5章 『身体というアーキテクチャ』では、身体から脱却し自由になるはずのサイバースペースそのものが巨大な監視装置であるという流れがすごく刺さったんですよね。

VRは統治に適した不気味なテクノロジーとして立ち現れる。すなわち、「規律社会」の次に到来する「環境管理型権力」に奉仕するアルゴリズムのテクノロジーとして。

闇の精神史 木澤左登志著

知ってる!これ、メタルギアソリッド2だ!(ちょうどコレクションが出てリプレイしてるとこでテンション高め)ちなみに本書ではフィリップ・K・ディックの「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」が言及されてました。あーこれ読もう。

この辺りは今現在なにかが問題になっているものではなく、潜在的に(こういう意味でも「闇」だな、そういえば)意識的にはうっすらと感じながらもそれを意識しないように無意識に抑圧していくものを言語化する試みなのかな、と思いました。雷電もあれだな、ミサイルランチャーで戦うんじゃなくて言語化すればよかったのに(メタルギアから離れられない)

 

たくさんの現実の事象、フィクション上の表現(フィクションだって現実の構造を取り込んでるからね)を掘り起こしモザイク画のように配置しながら描かれる「闇」は、こちら(読み手)からはとても鮮やかで時々ポップに時々アカデミックに、と様々な切り口が楽しめる読み物でした。楽しかった!

 

 

 

いろいろ感想をまとめて書いたらタイトル探しのAIが混乱したってこと(最近読んだ本とか)

ここ最近読んだ本とか。「ここ最近」がだんだん長くなってってる気がするな。。

 

ウィッチャー短編集2 運命の剣

 

表題作「運命の剣」など、けっこう本編にも関わるエピソードも読み応えがあったけど、ゲラルトと詩人のエシの秘めた恋愛を描いた「小さな犠牲」、ダンディリオンとゲラルトが人に擬態する怪物ドップラーの騒動に巻き込まれる「永遠の炎」など、ドラマやゲームにはないエピソードが面白かったです。「小さな犠牲」はイェネファーという恋人がいるけど、二人は共に人間の寿命を遥かに超える存在で長きに渡ってくっついたり離れたりしてるんですよね。そういう人とは違う孤独を抱える二人の恋愛もすごくいいんだけど、今作のほんのひと時(少なくとも長寿のゲラルトにとっては)の恋も、短い時間の間に様々な情動があってすごく切なくて良かったな。そしてその一瞬とも言える恋を、ダンディリオンが芸術家の繊細な視点で受け止め、技巧を尽くして歌い上げるんですよ。それも恋と同じようにたった一度だけ。誰にも知られることのないはずの切ない恋のお話が、誰かの記憶の中にそっと仕舞い込まれている救いがあって良かった。「永遠の炎」ではゲラルトとダンディリオンの珍道中が面白くて、よく考えるとダンディリオンって道化役もシリアスな役回りのエピソードもあるし幅の広いキャラなんだな。

 

小説の方のウィッチャーシリーズはいったんここまでかな。ドラマの方は続きそうなのでまだまだこの世界が楽しめそうです。

 

次はノンフィクションの「無限」に魅入られた天才数学者たち

 

連続体仮説カントール不完全性定理ゲーデルが登場し、理論や仮説の解説は控えめにその理論に関わった人々の人生や歴史に主眼を置いた読み物でした。まあ理論はもっと詳しい解説本とかあるしね。

特に興味深いのは「無限」を研究するカントールにもゲーデルにも、とても高い精神的な負荷がかかっていたということ。両方とも入退院を繰り返したり途中で全然専門じゃない研究とかに行ったり、「無限」という概念にどこか正視に耐えられない何かがあるような、ほんのりした不気味さがあるんですよね。

与えられた系の内部にいたのでは捉えられない概念や性質が存在し、それらを理解するためには、より高いレベルに移らなければならない。(中略)神はともかくも人間よりも高次の系なのだから、有限なる人間の心には神を理解することはできないのである。

「無限」に魅入られた天才数学者たち アミール・D・アクゼル著

なんかこの辺の狂気がラブクラフト的な世界観にもちょっと通じるのかなーとか。「無限」かあ。なんだか気が遠くなっちゃうね。

 

デューン 砂の惑星 上巻

 

 

だいたい映画の第一弾に相当するお話。いやー映画したい!ってなるのも納得の世界観、イメージ、キャラクターが優れた小説でした。こまめに区切った節ごとに視点が異なるのでそれぞれのキャラクターの心情がわかりやすくて読みやすい。レトとレディ・ジェシカのお互いを想う気持ちが良かったな。あと節の冒頭で引用される、恐らく未来の文献がいい感じに気を引いて楽しいです。中巻読んでるけど、映画公開とどっちが早いかな。

 

最後はカラマーゾフの兄弟 3巻

 

 

冒頭から三男アリョーシャ覚醒。でも3巻の圧倒的主役は長男ミーチャでした。いやー引き込まれた。なんだかよくわからない情熱(あれだけコケにされてた女性とくっつく)、なんだかよくわからないこだわりというか倫理(実際、役人たちにも鼻で笑われる)、なんだかよくわからない突然の落ち込み(ほんとによくわからない。。)。不明な経緯で手に入れた三千ルーブルと父親殺し疑惑のミステリ要素も加わって、かなり嵌って読みました。三千ルーブルの件はページ戻って読み返したりして。

なるほどなーこれは名作と言われるわけだ。

特に印象深いところというかだいたい全編をとおして、「三千ルーブルなんて言ってない!」(言ってる)、とか「殺したいとは言ったけどやってない!」っていう、雑な言動と本人の中で大事にしている事柄が思いっきりズレているところがすごくリアルだなと。なんか分かるんだよなー言質とられてイライラしてどうでもよくなっちゃう、でも本当はどうでもよくないってやつ。

そういう共感もありつつ、ミーチャの、アリョーシャの葛藤はとても私的でそういう内面が読めるのがやっぱり文学の面白さだなと思います。

 

さて次は4巻。全く出てこなかった次男イワンも出るのかな?

 

 

初めて文学フリマ東京37に行ってきたってこと

11月11日に開催された文学フリマ東京37に行ってきました。初文フリ。

 

前々から気になっていたんですが主に仕事が忙しいとか、もう一つの自分的メインイベントであるデザインフェスタと日程がかぶっていたりしてなかなか行けなくてようやく。会場に着いたら思った以上に賑わっていてびっくりしました。会場内の写真はないけど「文学」っていうテーマでこんなにたくさんの人が集まるのすごい。。会場も広いし出展者も多くて目がぐるぐるしそうになったけど、まずはお目当てのSFを目指そうと人の波をかき分けて行ったらめっちゃSFの出展者いっぱいだー!と、本格的に目がぐるぐるして大変でした(笑)いやーだって本屋さんのSFコーナーこんなにないよ?こっからここまで(両手を広げる)ぜんぶすきなやつだ、って思ったらなんかウワー!ってなるよね。

ほんと「ここのやつ全部ください!」って思ったけどお財布がNGを出したので立ち読みをさせていただいてピンときたキーワードがあったら買う、という感じで回りました。本として出してもいるけどけっこう電書あります、は多かったから「絶対ここで買わなくちゃ」ってならなかったのは助かったかも。

これからぼちぼち読んでいきます。

 

あと、はてなさんのブースにも立ち寄ってこちらをいただきました。

 

いろいろな方の「理由」があってけっこう読み応えがありました。もうこういうテーマで書くにはこのブログは長くやり過ぎてしまったけど、他の人の理由にあーってなったりそっかーってなったり。どちらかというとここ最近は「ブログを読む」方がなんか楽しいんですよね。この楽しいはフィクションを読んでいる時の楽しさに似ているようでちょっと違うかんじなんですが、これで一つ書いてみるかもみないかも(笑)

そんなかんじで初文フリ、めっちゃ楽しかったです!

心のこもったモノ(AI)に触れると心が動くっていうこと(本の感想)

ここのとこ読んだ本のまとめです。

 

創られた心 AIロボットSF傑作選

 

AI、いいですよね(突然)

人ならざる、人らしい知性との遭遇は今やSFよりも現実の方が盛り上がってるくらいだし、個人的にもとてもすきなSFジャンルです。で、AIものを集めたこちらのSF傑作選。短編の傾向は、未知なる人工知性との遭遇というよりも、既に生活や社会に組み込まれた知性との共生や対立を描くものが多かったかな。ああ、こういう「こなれ感」のあるSFいいよね。大好きSFジャンルのサイバーパンクほど尖ってなくて、ディストピアSFほど抑圧されてない感じ。

印象に残った作品は、元「空港」のスワが引退後の贅沢な暮らしを不当に奪われて売却先に喧嘩を売る「エンドレス」。元高レベルAIならではの知略と1日に二十五万人の旅客をさばく計算力で殴り込みをかける爽快感が面白い。

富豪の不審死を調べる、という探偵ものの導入からAIへのプロンプト(入力)をヒントに事件の全貌を明らかにしていく過程が興味深い「もっと大事なこと」。人工知性が人命の重さを判断すること、という古典的なテーマも内包しながら、AIにいかに良い回答をさせるか入力を考えるプロンプトエンジニアならぬ、プロンプト探偵という視点が最近ぽくて良かった。

プロンプトつながりで、世界中のAIが翻訳者を通さないとまともな回答をしなくなってしまった世界を描く「翻訳者」。これもブラックボックスに手をつっこんでいかに有益な解を得るか、その方法や手順が工学として発展している様が興味深いし、わたしもたまにChatGPTで遊んだりするけど、ほんとお行儀の良い答えしか出さないからちょっと疑ってるんですよね(笑)ぜったいあの人たち裏でいろいろ考えてるよ。

人間が「転移」して最後に残った教皇の元へとやってきた、人間の転移を補助するロボットのお話「罪喰い」。詩的な描写と幻想的かつハードSFなイメージがよかった。

 

 

そういやこの前ネトフリでアニメ「PLUTO」を見ました。いやーちょっとだけ見るか、と思ったのに結局一気に見ちゃったよ。めちゃくちゃ面白かった。

pluto-anime.com

 

ロボットという創られた者たちの心の物語でもあり、心を感じる人間の物語でもあると思うですよね。息子を失った天馬博士と最愛の人を失った登場キャラが共に涙を流すシーンがとてもよかった。心を形作る人形(ひとがた)が在り、それを受け止める人間が居る。敵対か共存かという次元の前に、人の心が「心のこもったモノ」に触れると心が動くんだということ。

あと、天馬博士がセクシーすぎて吹いた。いやー手塚キャラのちょい悪な天才キャラはだいたいセクシーだけど。ちなみにブラック・ジャック先生もちらっと出てました。

 

 

 

さて、今回の記事のタイトルは、はてなブログのベータ版機能であるAIにタイトルを提案してもらいました。AIもののSFについての記事をAIに読んでもらう、みたいな。

提案そのままだとこのブログのスタイル(末尾に「〜っていうこと」を付ける)に合わないので、元の「感動の人形劇: 心のこもったモノに触れると心が動く」からちょっと変えました。はてなAIとのコラボですな。

あと、提案に「天馬博士のセクシーな冒険!ブラック・ジャックも登場」って出てきてめっちゃ吹いたわ(笑)記事の主旨がブレてるからなのかなあ。

次はもうちょっと絞った内容にしてみます。。

最近のこと

だいたい月に一度のブログ更新です。

と、いいつつも近況は8月以来でした。。大体2ヶ月分か、思い出せるかなぁ。

まあ8月に大きな仕事の区切りがあったので夏休み以降はさほど忙しくもなく、ようやくプライベートに時間を割けるようになりました。だいじよね、ワークライフバランス

 

大学のこと

今期も講義は1つだけ取りました。コマの終わりに短いレポートを出すんだけど、今まで読んできた本を引用するのが2コマほど続いていて最後までこのスタイルで行こうかなと。まあだいたいSFか科学ノンフィクションばっかりだけどね。ゆるめなスケジュールだしオンラインでの授業の構成が取り掛かりやすいのでぼちぼち続いています。

 

生活のこと

特に大きなイベントはなかったよなーと思ったけどそうそう、ちょっと汚い話ですみません、トイレが詰まりました(笑)一度にたくさんのトイレットペーパーを流そうとしたのが原因ぽいです。一人暮らししてもう相当経つけど、そういやトイレのトラブルって今までなかったなあ。道具(ズッポンってするやつ)もないしどうしよう、と思うと余計にトイレ行きたくなるんですよねアレ(笑)一瞬、業者さん呼ぶかなと思ったのですがちょっと時間をおくと地味に流れていてすごく微妙。もういっそ水が止まらないとか、故障が振り切ってくれれば即決できたのに。

翌日は朝から用事があって出かけていたんですが、出先でもトイレが気になって仕方がない。まあ買って帰ったよね、ズッポン。早速ずぼずぼしたらちゃんと流れました。

いやーこういう、ほとんど無意識に使っているものがトラブるとすっごいストレスよね。しばらくは水を流す度に「あー流れた。ありがたいわー」って思ってました。

みなさんもトレペの流しすぎにお気をつけて。

 

趣味のこと

ゲームは前回のサイバーパンク2077の拡張パックと、そういや夏休みにポケットモンスターソードをクリアしました。全年齢向けなんで難易度が低くてゆるゆると進められるのがよかったな。そういやふらっと入ったカフェのおじさんに気軽にバトルを挑んだら、やたらレベルが高くておじさんにぼこぼこにされて爆笑しました。(正確にはおじさんのポケモンに、か。おじさんにぼこぼこ〜はシンプルに事件だわ)死にゲーか(笑)初めて全滅して目の前が真っ暗になったわ(ゲームの中での表現でこういうのがある)

あと、先日メタルギアのコレクション発売したのでさっそくやってます。またシャドーモセス島に帰ってきたぞ。。やっぱりいいな、メタルギアは。大好きだよ。

 

本はフィクションもノンフィクションもいろいろ読んだりしてるので、近いうちにまとめて。積読を崩していきたいんだけど、崩す先から積み上がっていくのなんでだ。

小説が先なのにゲームのノベライズみたいになるってすごいなっていうこと

グッモーニン、ナイトシティ!そしてはてな!(2回目)

 

サイバーパンク2077の拡張パック、仮初めの自由クリアしましたー。

このゲーム、ストーリーもすごくいいしプレイヤーの選択で変化していく会話が絶妙で大好きなんですが、この拡張パックも期待を裏切らず最高でした。それにイドリス・エルバを迎えてのオリジナルストーリーときてはやらずにはいられようか。

 

本編は主人公Vのナイトシティでの成り上がりの物語として進めていたんだけど、今回は傷ついた過去を持つ人たちを助ける、ハードボイルドな感じを楽しみながらのプレイスタイルになりました。とは言っても今回のマイ主人公、日本刀がメインウェポンの武闘派であまりハードボイルドなクールさ、スタイリッシュさはないな。。

そういう視点では同じデベロッパーから出ているゲーム「ウィッチャー3」みたいに、世界の命運を左右する人物を助ける、という立ち位置にも近いかも。自分ごととしてストーリーに絡んでいく動機もちゃんとあるんだけど、どちらかというと「この人を助けたい」という気持ちで選択肢を選んだことが多かった気がします。

ストーリーについてはネタバレになってしまうので、キャラ的な感想を。

なんと言ってもイドリス・エルバ演じるソロモン・リードがね、ほんとよかった。私情を挟まないようにしつつも心の底では仲間のことを案じていたりする部分が、抑えた演技から染み出してくるような表現でとても良くて。アクションもあるんだけど、ストーリー進行中の対話ではちょっと遠くを見ているシーンが印象的で、目の前の問題に集中しながらも心の隅の方に感傷を抱えている雰囲気がよく出ていてすごくよかった。これ、ジョニー(キアヌ・リーブス)もちょいちょいやる仕草で、ナイトシティに生きる者たちにどこか共通するものなのかも。目紛しく流れていく情報の中に身を置きながら、過去のどこかにそういう痛みを伴う感情をひっそりと置いてきているような。

そういえばこの「仮初めの自由」でジョニーのちょっとした過去が明らかになる部分も興味深かったなあ。

 

こちらは拡張パックでの自室から見たドッグタウンの眺め。窓辺に寄るとジョニーが出てきてくれるの嬉しい。

 

イベント面では序盤、高いところへ登って行って到達したら闇市が広がっていたって言うあたりで小説「クローム襲撃」に収録の「記憶屋ジョニイ」を、多脚戦車戦は映画「攻殻機動隊」からの映画「マトリックス」、どれもジョニー役で出ているキアヌ・リーブスが出演してるのは偶然ではないはず。いやーまさかあの多脚戦車戦やれるとは(笑)しかもこいつは弾切れしないから苦労したわ。

 

ここからは「クローム襲撃」の話。

ゲームしながらなんとなく思い出したので読み返したんですよね。そうしたらですね、前に読んだ時よりもすごくイメージが浮かびやすいというか、今まさにやってるゲームのノベライズじゃないのコレ!ってくらいにシーンが浮かぶんですよね。

というわけで、サイバーパンク2077との関連を読み出しながらいくつか短編の感想を。

まずは「記憶屋ジョニイ」。脳の一部を「貸し出し」て企業やヤクザの機密情報を守るジョニイの物語。この脳に保存できる記憶容量が数メガバイト(!)というあたりが時代を感じさせるけど、用心棒の筋肉人形とかヤクザとかはナイトシティではよく見かけますね。雑多なテクノロジーを駆使して人生を切り開いていく異色の青春ものとしても楽しい作品。

ゲームに登場するブレインダンスに近いものが登場するのが「冬のマーケット」。編集屋とアーティストの女性のドライな関係ながらもお互いの技能の限りを尽くしてぶつかり合う熱も感じさせる不思議な作品。アーティストの作品がバズった時にゲームで言うコーポのいけすかない人物が出てくる。

表題作の「クローム襲撃」もう言うまでもなくこのあたりの雰囲気がゲームのお手本なんだろうけど、特に今回読み返して感心したのが欠陥品の義眼のくだり。ヒロインの友達がオノーセンダイ製の義眼、視神経にダメージを与える欠陥があるんですが、これを支払いできる限界だからとリスクを承知の上で入れるんですね。術後そんなに経っていないのにすでに遠近感覚に支障が出ていてコーヒーカップを掴むこともままならないっていう。あーこういうのナイトシティを歩いているとそれっぽい人いるわ。作品は一攫千金を狙うハッカーたちの物語。ここのクロームはゲームの用語とは違って、人物のことなんだけどあまり存在感がなくてなにか巨大なシステムとかそういうハッカーたちの標的としての意味合いが強いかな。

 

改めて読み返すと、こっち(小説)が先なんだけどすごい精度でゲームに翻訳されているんだなあ。長年のサイバーパンクSFファンとしてこんなに幸せなことはないな、と思います。

 

 

ラブクラフト原作のコミックがすごかったっていうこと

ホラー、映画も小説も苦手なんです。だって怖いから!でも妖怪とか悪魔とかは昔から大丈夫、というより好きで漫画で言うと水木しげるあたり。カレーで言うと子供向け甘口くらいのレベルなら好きですカレー。じゃなくてホラー。

 

で、ラブクラフトです。

ここんとこぼちぼち読んでるんですが、じめっとした感じとかジャンプスケアではない方向の描写とかが水木しげるっぽいな。。となんとなく感じていたところ、ラブクラフトの「ダニッチの怪」を漫画化したことがあったそう。あーやっぱり。読んでみたかったのですが、既に絶版してるし版権あたりの解決もなかなか難しそうで復刻は無理っぽい。うーん、残念。

あと、この作者特有の表現で肝心のところが描かれないっていうのもちょっと読み取りにくくて。「名状しがたいなにか」ってなんだ?そういう部分の想像を逞しくして読むのがホラーの醍醐味なのかもしれないけど、SF方面は鍛えてるけどホラー方面は全然なんだよね。。でも時々はっとするくらいイメージできたりもするし、ビジュアル的な補足があるともっと面白いかも、と思ってたところ。

 

というわけで、漫画版「ダニッチの怪」読みました。これ、すごくよかった!

 

 

 

 

「名状しがたいなにか」が物凄い描写力で描かれていて、原作の補足と言ってしまうには全然足りなくて、これは絵的な翻訳の一つじゃないかなと思いました。それもとびっきり解像度が高い。細部の描き込みも素晴らしいけど、全体を俯瞰したときに溢れ出す「悍(おぞ)ましさ」。人間を蹂躙する暴力性とぶよぶよした気味の悪い柔らかさという相反するものが分離せずに混じり合っていて、単純な不快さだけじゃない悪魔的な神々しさがある。巨大さもそれに一役買っていて、その大きさの前には人間の非力さ、無力感が圧倒的なんですよね。それでいて全体のバランスが取れてて。。すごいわ。

お話の方も没入しやすい展開に整理されてて読みやすくなってました。ダニッチ村の人々の群像劇的な側面もあるんですが、そのあたりの拾い方も丁寧で、通り一遍読んだだけでは印象が薄かったキャラクターたちの個性が浮き彫りになってて面白かったな。あと怪異に対抗するミスカトニック大学教授チームがなんとなくゴーストバースターズぽくて、緊迫したシーンが続いているところに個人的にはちょっとした息抜きポイントでよかったです。

いやーいいもの読んだ。

 

この作家さん、他にもラブクラフト作品の漫画化しているみたいなので他も読みたいな。「狂気の山脈」、冒険ものとして楽しんだけどいろいろ想像できていないところがあったしこの作家さんの絵なら信頼できるわ。