たのしいSFの読み方


こんにちは。このブログを書いてる者です。SF、読んでますか。「理屈っぽくてきらい」「どこが面白いのかわからない」ごもっともです。でも時々「SF初心者だけどなにか面白いもの教えて」なんていう記事を見かけることもあるし、本当はちょっとだけ気になってたりしないでしょうか。今回は私なりのたのしいSFの読み方をご紹介したいとおもいます。

  • その1:完全に理解しなくていい

SFを読むと途中で設定がよく分からなくなってしまってやーめたってなってしまうかもしれません。途中で分からなくてもいいんです。確かにミステリーや恋愛小説では致命的かもしれませんが、SFではわりと大丈夫です。もちろん完全に理解して読む方が作者の仕掛けに気づいたりして楽しいのですが、専門性のある科学的な分野をいちいち履修してから読んでいては大変です。それにSFは論文じゃないので、フィクションとして楽しめる部分があります。そこを一さじでもすくい取れたら上出来、くらいの気持ちでいいとおもいます。

  • その2:古典を読む

これはSFに限った話ではないと思うのですが、過去の名作は現在の作品に引用されることが多いです。(逆に引用されるから名作なんですが)有名なところでは「1984年」、「月は無慈悲な夜の女王」、「たったひとつの冴えたやり方」、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」などなど。どれもSFをあまり知らなくてもタイトルくらいはネットで散見できるのではないでしょうか。古典を読む利点は、なんと言っても通ぶれること(笑)。というのはさておき、ネタとしては古くても、現代のSFのアイデアの基点になっていたり、単にネタとして盛り込まれていたりするので古典は欠かせません。ただ昔の作品なので、言葉遣いや海外作品の場合は訳が難しかったりして読みにくいこともあるので、これも完全に理解するというよりはさらっと読んでおくくらいでもいいと思います。

  • その3:イメージをつかむ

読んでて何のことなのかまるで分からない、なんてSFでは普通です。普遍的な物理現象が突然ひっくり返ったり、抽象概念で延々と展開してたり。でもだからこそあえて想像してみるのです。それはもうハリウッドばりの脳内CGで!脳内だから誰も変だなんて言いません。それでも根拠のないことを想像なんてできない、という人はこれまで観て来た映画や夢でもなんでも総動員して、似ていそうなものを検索してみるのはどうでしょうか。私はグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」という作品の冒頭でとある知性体が知覚を獲得して行く過程がどうにも難しくて、映画「攻殻機動隊」のオープニングのサイボーグが製造される過程を想像しながら「こういうこと?」と思いながら読みました。残念ながらSF作品にはあまり挿絵というものがないのですが(あればいいのに!)その文のイメージがあると、なんとなくそれがどういうものなのかとっかかりができるような気がしませんか。でも想像してる時の顔にはご注意を。できれば難しい技術書でも読んでいる時の顔を用意しておくのがおすすめです。

  • その4:積み重ねる

SFというジャンルにはサイエンスという基盤が一応あります。そしてその基盤である科学は、過去からの実証された成果の積み重ねの上にあります。それを土台とするSFも当然、フィクションと言えどもきちんと科学的な積み重ねをしている作品がほとんどです。でもだからと言って現実の科学に精通している必要はないと思います。多くの作品は文芸的な楽しみを損ねずにこの科学的な積み重ねを上手く説明し、そのフィクション上の科学を発展させて物語を描いています。最近読んだ中で秀逸だったのは「華竜の宮」ですね。冒頭でちゃんとインストールしてくれるのでSFだから科学に詳しくなければならない、という気負いはまったく不要です。でもこの科学的な積み重ね、理屈を詰めて行く、という部分はSFではとても大事です。この積み重ねが読後に自分の中にパズルのように完成した時、SFが本当に面白いなと感じる瞬間だと思います。

  • その5:あきらめない

私もやっぱりどうしても難しくて諦めた作品がいくつかあります。でもある程度冊数を重ねて行けば、難しいことも「こういうことなのかな」とぱっとイメージできたり、他の作品や過去の作品と照らし合わせて理解できたりすることがあります。そのためには読書を単なる暇つぶしとして読み捨てるのではなくて、自分の中で何が理解できたのかをはっきりさせながら読む、経験として積んで行く読書がよいのかなと思います。それがどんなささいなことでも、作品の趣旨とは全然関係のないことでも、「何を考えて読んでいたか」を残しておくことは、この読書経験をセーブするということだと思うんですよね。それで一定のレベルが上がった時に、再度チャレンジしてみるときっと最初に読んだ時よりももっといろいろな読み方ができるようになっているはずです。だから、あきらめないでっ(笑)

いかがでしたか?「あきらめない」とか「イメージしろ」とかスポーツ根性論みたいで、こんな努力するなら別にいいやって思われたかもしれません。私は読むのが遅いので多くの作品を読んでいるわけじゃないんですが、自分なりにSFってたのしいなと思いながら読んでいます。でもやっぱり人に勧めにくいジャンルであることも分かっていて、SFってけっこう面白いよと伝えたくてこの記事を書いてみました。これを書きながら、むしろ自分に向けた文章になってしまいましたが、少しでもSFをたのしく読む人が増えたらいいなと思います。さて次はなにを読もうかな。