最近読んだ本とか

ここ最近は積ん読電子書籍)の消化がめっちゃ捗ってます。でもまた買っちゃうんだろうけど。。


世界の誕生日


同じくル・グィン「闇の左手」と同じ世界観の小作品を含む短編集です。この中で「孤独」は別の短編集(SFマガジン700海外編)にも収録されていて、これは読んでたんだけど他は初めてかな。


この短編集は性とそれにまつわる個人の物語が豊かに語られている印象です。性と言っても一般に想定する男と女ではなくて、様々な環境での多様な性の在り方に注力しているんですよね。で、あんまり親切な文章でもありません。わりとハイコンテクスト、というのかな。読者が分かってる想定でどんどんお話が進んでいきます。
だけど、ここに登場する人々の性との葛藤とか、誰かと関係を持ちたい気持ちとか、そういう普遍性というのも埋め込まれているのでそんなに置いていかれる、という感じでもないんですよね。で、ここがやっぱり面白いところで、どんなに多様な性の在り方だとしても、自身の身体について、相手との関係について、あるいはその性を内包する社会について、悩んだり考えたりする過程がすごく興味深くて面白かったですね。


過負荷都市

過負荷都市 (ハヤカワ文庫JA)

過負荷都市 (ハヤカワ文庫JA)


役割を演じるからその自分でいられる、という変な都市で「高校生をしている」峯士(たかし)は高校生であることをやめて(殺す相手もいないのに)殺し屋である自分を選ぼうとするが、恋人の玲湖(れいこ)や年上の親しい間柄の剣丈と共に、高い負荷のためにおかしくなっていく都市の綻に巻き込まれる。


タイトルにもあるように過負荷(かふか)ときて、ちょっと不条理というかこの著者だといつも通りというか。何者にもなれる、という設定を個人の(若者の)努力や意志ではなくて都市の方に組み込んでしまうのが面白いんですよね。人間は無限の可能性を一つに留めておくだけの存在っていう。でも峯士たちは様々な可能性世界を行ったり来たりして、多様な現実に直面します。一意に定まらない現実に戸惑いながらも、彼らはなんだか前向きなんですよね。高校生カップルの無邪気さと、そこに一人はさまったおじさんの悲哀がなんだか面白くて、そんなに難しいこと考えずに彼らと一緒にドタバタな現実を飛び回る感じが楽しかったです。それに両親や祖父の関係は、こんな「現実離れ」したお話なのに、きっちりと地に足ついていて、おじいちゃんのエピソードが良かったですね。


Gene Mapper - full build -


この作者さんの長編を読んだのは初めてですね。(短編はいくつか)
ガジェットの使い方とかテクノロジーへの姿勢とかがかなり好みでした。特に拡張現実を実現する技術周りの設定と描写は、サイバーパンクものとしてここ最近で一番「おおっ!」と思うところがけっこうあって楽しめました。ストーリーもミステリ仕立てでついつい先が気になってしまうし、主人公の周りがかなり有能でがんがんお話を引っ張っていくし、主人公要らないんじゃ。。って思ったらちゃんと見せ場があって良かったです。技術と人との関わり方(というか技術との距離の取り方、かな)を様々な視点から模索する展開、最後の将来への「開かれた」展望はけっこうぐっとくるものがあって面白かったです。


ディアスポラ

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)


前に一度読んでるんですよ、これ。で、今回読み直してみて。内容全然覚えてなかったせいで、新鮮な気持ちで楽しめましたw なんとなく最後だけは覚えてたけどね。そして相変わらず途中の宇宙物理的なところはあんまり理解できていないけど(そもそも六次元とか無理)、やがて来る災厄を前にあの手この手でなんとかしようとする人類の途方もない旅の過程がすごく良かったですね。人類といえどソフトウェア化している彼らはそもそも不死だし並列化するし、災厄という終焉を回避する方法を探りながらも、不死となった後の自分自身の「終わらせ方」という部分を同時に考えないといけない。登場人物一人一人が選ぶ結末がすごく興味深くてあまり停滞することなく読了しました。
前に読んだときからSFレベルちょっと上がった感じがしてうれしい。


亡霊星域

亡霊星域 (創元SF文庫)

亡霊星域 (創元SF文庫)


叛逆航路 ラドチ戦史の続編です。
前回は主人公ブレクの逃避行と復讐劇でこちらもすごく面白かったんですが、今作は派遣された先の星系で遭遇する異種族、異文化とそこにある軋轢に立ち向かう、どちらかというと組織的、政治的なお話でした。前回ほどアクションシーンはないものの、ブレクを中心として前回から続いて登場しているセイヴァーデンなどの主要キャラクターたちが時に喧嘩したり和解したりして星系の安定に奔走する展開もかなり面白かったですね。前回は孤独に(というわけでもなく常にやっかいなセイヴァーデンがいたんだけど)立ち回っていたブレクが、今回は同乗している副官たちと協力したり異種族と接触して協力関係を作り上げたりと仲間との関係に視点が置かれているんですよね。ある事情からブレクは意識を共有していた部隊から離脱しなければならなくなり、以来ずっと孤独だったのが今作でちょっと報われたのかな。。というシーンがすごく良かったです。