「MetalGearSolid - Guns of the patriots」

METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS

METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS



ネタバレはないと思います。
が、読み終わった後の方が良いかも。






まず最初に思った事は、読みやすいということ。
今回は完結編という事でストーリーがとても長く、
人間関係や状況がかなり複雑で、相変わらず軍事兵器や企業などの世界観の設定が膨大なため、
当然かなり分厚い小説になっているんですが、
途中で苦痛を感じるような事もなく、久しぶりに没頭して読んでしまいました。
一人称で書かれてるのも読みやすさの一つだと思うけど、
難しい用語や文脈はほとんどなくて、かと言って単純な言い回しや改行ばかりでもなく、
ちょうど良いバランスで物語に集中出来ました。
それとゲームではちょっと分かりにくかった部分の補完がとても上手くて、
そういう説明や言い換えはすごく助けになりました。
正直に言うと、メタルギアは複雑で理解が難しい物語だと思うんですね。
ゲームはとにかく飽きさせないように、思わせぶりなシーンやセリフが入っていて、
それで余計に混乱してしまって、ちゃんと分からないままエンディングを迎えてしまったことがあるけど、
(復習してただけあって、初プレイで納得してエンディングを迎えられたのは今回の4だけ)
この小説の中では、文字の表現の力を存分に活かして、複雑に入り組んだ状況をイメージしやすいように
上手く読み手を導いていて、すごいなあと思いました。
特にストーリーのキーになる「愛国者達」っていうのが難しくて、
「この世の規範」って言われても抽象的でピンとこないし、
敵っていうかまぁ敵なんだろうけどはっきり実態がある訳じゃないし、
敵だから害があるかっていうとそうでもなくて、むしろ人の役に立ってたりすることもあるし、
じゃあ結局なんなのっていう部分を、
原作を損なわずにうまく説明されてて良かったです。


この小説は「オタコンの視点で語られるメタルギアという物語」なのですが、
オタコンの視点と物語をゲームで体験して来たオーディエンス(読み手)との同期が高くて
とても良かったです。
ゲームと違い、文字で表現されているせいもあるかもだけど
(文字での表現は感情とか「見えない部分」も具体化できるから)、
単にそれだけでこんなに共感できるとも思えないし、これは純粋に書き手である伊藤さんの
技巧だなあと思います。
特に、スネークの性格や行動に言及するくだりは、うんうん頷きながら読んでました。
「そうそう、この人ってそうだよね」みたいな。
一方で、ちょっと違うなっていう部分もあって、それはそれで楽しかったですね。
「メリルの扱いに困るスネーク」っていう箇所で、
女性の扱いには慣れてるイメージがあったけど、あぁそういう風にも見えるねっていう
視点が面白かったですね。
あとどこかに「スネークは目をぱちくりさせた。」っていう記述があって、
ぱちくりが妙にツボにはまりました。
こんな無骨なじいさんに、「ぱちくり」って表現はかわいすぎる(笑)
オタコンの語り口の表現も、優しくて繊細なキャラクターならではの
丁寧な心情表現や、複雑な状況への深い考察が、読みやすい言葉で綴られていて
すごく良かったです。
それと映画ネタもゲームに劣らず豊富で、「第三の男」は、あのシーンでまさにそう思ってました。
他にも知らなかったネタもあったので、新たな雑学が増えてちょっと嬉しかったです。
こういうオマケへのサービス精神がきっちり受け継がれてて、訳もなくにやにやしてしまいました(笑)


小説ならではの感動するポイントがゲームと違う所も良くて、
特に父と息子の関係を表現している箇所は、ゲームとはまた違う印象深さがあって素敵でした。
こういう構造のお話は、女の立場から見てその視点や感情が興味深かったりするんですが、
この部分は、ゲーム以上にしっくりきたというか、すごく納得しましたねえ。
父と息子の物語なんて、この世に数多くあるけどこんな風にすとんと気持ちに入ってきたのは
初めてかも。
小説でハイライトしているテーマでもある「語ることの意味」も、
ゲームのような派手さはないものの、というかむしろ質素でありながら切々とした表現がじんわりと
心を動かすような、そんな素敵な読後感を与えてくれました。


この本は単に原作に対する副読本というよりも、
メタルギアという物語の一つの表現型、映像や音楽や操作性を詰め込んだ表現型をゲームというなら、
文字でこの物語を表現したものがこの小説じゃないかな、と思います。






以下は勝手に思い込んでる部分なんですが、
小島監督作品ではたまに、ゲームの内側だけに留まらず「外側」(プレイヤー)に向かってネタを仕掛けることがある
(MGS1をやった人なら「パッケージ」で分かるはず)のですが、
この小説も物語の中だけでなく、「外側」に向かって仕掛けられているなあと思いました。
小説はゲームのようにインタラクティブにはいかないので、この物語の「本」という存在そのものが
「外側」に向かって仕掛けられてるんじゃないかな、と勝手に思いました。