「数学ガール」

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)



数式を解くのは山登りに似ている。数学の答えは一つしかない。そして山にも山頂と呼ばれるものは一つしかない。そのたった一つの解、もしくは山頂目指して地道に式を展開あるいは足を動かすのです。まあ、登山には数式のような飛躍はありませんが、一つ展開する度に、一つの上りを越える度に、違う風景に出会えるのは同じ。そしてその足跡を積み上げて、ようやくたどり着くのです。どちらもずっと苦手だなあ、と思っていたけど、もしかしたらそんなに嫌なものではないのかもしれません。


著者の結城浩さんは、Cマガジンの頃から(一方的に)お世話になっています。3次元計算の記事が掲載している号とかいまだに会社に置いてあるし。数学系のトピックだけでなく、ウェブ系の記事も時々見かけるので「幅広いスキルを持った技術者」というイメージですね。ちなみに青空文庫でも名前を見かけてからは「なんでもやってるすごい人」になりましたが(笑)
この本、漫画にもなっているようですが、式の展開をじっくり検証するにはこちらの方がいいのかもしれません。式の全体のイメージを俯瞰するのは、漫画のようなビジュアルが強いメディアが良いのかな。
数学ほど「分かる」と「分からない」がはっきりしている学問はないでしょう。そのせいか「分からない」と感じると否定されたような気になってしまうものですが、そういう「分からない」劣等感をうまく導入して、ポジティブな方向に持って行く展開はとても良かったです。二人の女性キャラクターの使い分けも、うーん、ちょっとベタかなあ(笑)と思いましたが、読者の多様なレベルに合わせるには良かったと思いますね。いやー、中盤までミルカとテトラは姉妹だと思っていましたよ。
はっきり言えば、私自身すべての式を理解して読んでませんでした。まあ元々数学は苦手なんですよね。ははは。でもこの本の目的は「理解すること」にあるのではなく「自分で探すこと」にあると思うのです。だからかなり高度な式も平気で登場しますが、その詳細の理解は読者に委ねられているのです。ちゃんと「手を動かして」展開すれば分かるようになっている。でもそれを一つ一つ丁寧に解説するのではなく、数式を俯瞰することに力を注いでいるんですね。山に登る前にいきなりヘリで山頂付近に連れて行ってくれる感じですかね。で、「すごいでしょ?」って紹介してから麓に下ろされるのです。さあ、後は自力でどうぞ。でも何も心配することはありません。この本がきちんと山頂までガイドしてくれるのですから。