「借りぐらしのアリエッティ」

下手だけどデジタル一眼のマクロで花や植物を接写するのが好きです。見たことのない視点で小さな世界を覗き見ること。映画でも小説でもやっぱり好きなのは、この見知らぬ視点から見る世界の驚きなんですよね。そういう部分で、この映画は想像していたよりもきちんと「小人から見た世界」を描いていてとても面白かったです。特に面白かったのは、音。普段私たちが立てている生活の音が、小人の耳を通して聞こえる音として鳴ると、単に冷蔵庫や戸棚のスケールだけが違う画面にぐっと「それっぽさ」が加わってとても新鮮でした。音ってやっぱり映画の世界を支えている構造の一部なんだなあと改めて思いますね。いやーこのサウンドメイクは文字では伝わらないなあ。それでいて、会話のシーンはその法則をさり気なく無視する適切さとか(実際、小人の声って蚊の鳴くような音にしか聞こえないと思う)小人の世界を音でうまく引き立てていて面白かったです。

この映画、公開までほとんどプロモーションがなかったのですが、一度テレビでみた映画CMにちょっと違和感を感じていたんですね。登場人物の一人である翔という男の子がアリエッティを初めて見た時のワンシーンなんですが、少しドキッとするくらい猟奇的な印象がありました。これ、私だけかなと思ったんですが、ちょうど隣で鑑賞していた女性達もそのシーンで小声で騒いでいたので、もしかしたらそういう風に感じている人は多いかもしれません。ジブリ作品には似つかわしくない、この違和感はいったいなんだろう。キャラクター像はジブリの正統派の男の子なんですよね。だけど多くの人が気づかれていると思うけど、この翔という子、すごく性格悪いんですよ。いや、こういう書き方するとアレかなと思ったんですが、本当に観ながら何度か「こいつ…」って思いましたもの。その性格の悪さにはちゃんとした理由があって、それが納得できなかったというわけではないんですね。なんていうか、絵柄はそのままに明らかに宮崎作品とは違うキャラクターなんですよね。こういうストレートに自分の(他人ではない)感情に対して繊細なキャラクターは、あまりいないんじゃないかな。そういうキャラクターを導入するあたり、宮崎作品とは別のお話を目指しているような、現代の作品だなあという感じがしました。

それとこのお話は、小人の彼らは人間から必要なものを「借り」て暮らしている、という設定なんですが(だから「借りぐらし」)、ここは面白いなあと思いました。借りる、という言葉には将来的には返す、という意味があります。でも彼らは分かっていると思うんですよね。彼らが借りているものは決して返せない。それでも「借りる」という言葉を使うのは、ひとえに謙虚さだと思うんですよ。お借りしている、だから無駄にはしないでちゃんと使う。こういう姿勢を大事にしようよ、というのをさり気なく映画の中で提示するという部分は、ジブリ作品らしいな、と思いました。