メタルギア ソリッド サブスタンス2 マンハッタン


ゲーム「METAL GEAR SOLID2: SONS OF LIBATY」のノベライズです。著者はMGSシリーズのノベライズをいくつか手がけて来た野島一人さん。ピースウォーカー、MGS1に続く三作目です。

というわけで。もうね、野島さんのノベライズは面白いに決まってるんですよ。そんなこと分かってても、やっぱりこう言うしかないんです。面白い。いやーほんとね、面白いのよ。って、ばかみたいに同じこと言ってても仕方ないので、その面白さを掘り下げてみましょう。

トリビアの使い方

小説中にたくさんのトリビアが登場します。その数にも感心するんだけど、「よくこれ調べたなあ」というところにも感心するほど細かく書いているのがすごいです。まあ裏を取っているわけではないし、フィクションなのでどこまで信じていいのか分からないけど(笑)そしてそれがただの記述ではなく、地の文に自然につないで行く技巧が素晴らしいんですよね。ゲームの方もそういう雑学がぎっしりと詰まった作品でもあるので、こういう流れを活かしているところがファンとしてはとても嬉しいです。特にテロや武器のトリビアは何度も「へええー」と呟きながら読みました。

キャラクターの内面

このMGS2の主人公、雷電(スネークではないのです!)は少し変わったヒーローです。普通に体力もあるし機転も効く器用さもあるし、なんといっても特殊部隊隊員でエリートなんですが、メンタルが少し弱いところがあるんですよね。というより、物事を自分のこととして考えることが苦手で距離を置く、そんなキャラクターです。そんな彼も戦場という当事者意識がなければ生き延びることができない場所に放り込まれて少しずつ変わっていくのですが、その過程がとても丁寧に描かれているんですよ。雷電VR訓練で「スネーク」を何度も体験しています。そしてスネークは彼にとってヒーローであり、ロールモデル(お手本)でもあるんですよね。そのスネークへの憧憬や信頼がすごく身近に感じられてよかったです。
ただ、少し伝わってこないな、と思ったのはEEですかね。彼女が抱えている愛憎を少し綺麗にまとめすぎた感じがします。子供っぽくもあり大人の女性でもある彼女には、ぐちゃぐちゃなところがあると思うんですよね。一方で、雷電とのシーンはすごく息の合ったところがあってよかったです。

でもやっぱり

段ボールは出して欲しかった…。
雷電が主役なので、MGRやMGS4など後続作への手がかりを盛り込んでいたのはとてもよかったです。


以下ネタバレ







ゲームのストーリーを包括する、「あなた」の物語

MGS2は、少し複雑な物語です。少し、いやかなり。
雷電が最終的に向き合うのは、世界を「制御」しようとする機械知性体です。ゲームだと世界を「支配」しようとするボスをやっつけて終わり、というパターンですが、このゲームの大ボスは人間を配下に置こうとしているのではありません。人間の進化を促進するために、全人類が生み出す情報を制御しようとしているだけなのです。雷電はその制御プログラムの実証実験に選ばれたんですね。本人の知らないうちに。
全人類の情報を制御、統制することというのは、人間が属するコミュニティや文化をコントロールすることです。でも、本来そういうものは、人間の手にあるべきものだと思うんですよね。インフラやツールとしてコンピュータを使っていたとしても、判断は人間がするべきです。Twitterでもし、プログラムに勝手にフォロー・リムーブをされたら気持ち悪くないですか。オススメですら「何か違う…」って思うのに。まあ個人的な見解はどうでもいいけど、ゲームのストーリーは、そのコントロールからの脱却を目指しています。それは自分自身が選ぶこと、そして語ること。
そして小説はというと、ゲームのストーリーが小説として書かれている、というメタ的な内容になっています。語り手はプログラムが取捨した情報ではなく、彼自身の言葉でMGS2の、雷電の物語を語ります。それは彼の中だけで完結する閉じたものではありません。ネットの海に放流され、ある人には共感されある人には拒絶され、文化的遺伝子(ミーム)の淘汰圧にさらされます。それはファンの人たちがゲームの予告を観ながらコメントしたり、先を予測したりする過程そのものです。「ファンのひとり、すなわちあなたがMGSを語ること」をこのテーマに結びつけているんですね。
その中で一つ、とても印象的な一文がありました。

英雄(ヒーロー)は、感染源として存在している。
メタルギア ソリッド サブスタンス2 マンハッタンより)

ヒーロー、とルビが振られていますが、これって「ヒデオ」って読めません?(笑)
言い換えると
「ヒデオは、(MGSというミームの)感染源として存在している。」と勝手に読んで、勝手に納得しました。クリエイターが造り上げた物語を、ファンが語ることで文化的遺伝子が伝えられて行く。物語を生み出すのが人なら、物語を語り伝えて行くのも、また人なのだとそんなふうに思いました。またゲームがしたくなるなあ…。