ハイ・ライズ

J・G・バラードの小説の映画化です。ジムやスーパーマーケットなどが完備された高層マンションで繰り広げられる血みどろのパーティ。

そういえばバラードは「沈んだ世界」しか読んだことがなくて、抽象的というか内省的な内容があまりうまく理解できなかったのを覚えています。この映画の原作「ハイ・ライズ」も読んだことがなくて何も知らないまま観に行きましたが、なかなか良い作品でした。
うーん、いい映画という言葉はふさわしくないんだけど、読み解きが楽しいんですよね。住人たちがえげつなく堕落したり、噴出するエゴの強烈な腐臭が綺麗な構造のビルから廃墟となり混沌へと落ち込んでいく画で的確に描かれている。解剖学教室で人面を剥ぐグロテスクなシーンと住人たちの内面がリンクしているように見えたし、腐敗とスーパーの果物が腐っていく様子が分かりやすく描かれていて、そういう意味で良い映画でした。
なんだろうね、この映画では妊婦が酒やタバコをしていたり、子供の前で母親が男に抱かれていたり、夫が平気で妻を殴ったりと、不道徳のオンパレードな感じなんですが誰もそれを疑問に思わない。画面の中と観ている外の側で心理的に強いコントラストがあるんですよね。でもそこにある道徳というのはとても不安定なもので、今のこの常識や道徳がこの先も存在しているかというと全然そんなことはないはずだというのも分かる。人間があれこれ無駄な知恵で築きあげる良識というものは、本質的に混沌とは相容れないものなのだと思うんですよね。
この映画は人間の浅はかな道徳の具現として、最初から完璧に狂っているビル、ハイ・ライズがあり、それが本来あるべき地に落ちていく様を描いた作品なのではないかと思います。


それにしてもトムヒの筋肉は素晴らしいなあ。彼の健やかな肉体と、顔に浮かぶ不健康そうな表情のコントラストがとても魅力的でした。