「グラン・トリノ」



「死ぬのは俺一人でいい」というヒロイックを描いた物語。と、言うとすごくありきたりのつまんない映画のようだけど、そのヒロイックというファンタジーを、ある程度のリアリティに落ち着かせることが出来る映画というのは、もしかしたら少ないのかもしれない。派手なアクションがある訳でもなく、濃厚なラブシーンがあるわけでもなく、どちらかというと地味で暗いお話なのに、やっぱりどこか映画のファンタジーを感じるのは、クリント・イーストウッドの存在が大きいからだ。年老いた男として登場する彼は、決してヒーローではない。頑固で心が狭くて、家族や他人と上手くやっていけない。孤独で惨めな老人。それなのに、夕方缶ビールを飲みながらテラスのベンチに座って、愛車と愛犬を眺める彼は、とても格好良く見える。外見や服装はどうあれ、姿勢のきれいな人に感じるような美しさがある。他人や世間に対するのとは別の、自分自身に対する佇まいがそこに現れている。これが物語の一つの軸ともなっていて、このスタンスは物語を通して一貫している。それは、自分がやったことを自分で許せるか、という視点だ。何をもってして自分自身に許しを乞うかという、その問いに答えるのが「死ぬのは俺一人でいい」だと思う。ただのひとりよがりでしかないと言えばそれまでだけど、若い神父に向かって「I'm at peace」と振り返った姿は最高にヒロイックだ。