「アマルフィ 女神の報酬」



『日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。ー日本国外務大臣ー』


パスポートを開くと現れるこの文言を初めて読んだ時、海外旅行って本当に日本の法の外に行くんだな、と思ったものです。対外に対して最も交渉力がある(はず)の外務大臣でさえ、『要請する』ことしかできない世界。困難に巻き込まれた時に、後ろ盾となるものが存在しない場所。本来、海外に行くということはそういう危険を伴うものなのでしょう。


というわけで観てきました。すっかりブームから乗り遅れていますが。予告編やCMからなんとなくスパイものを想像してました。日本人を主人公にしたアクションって難しくて、まず国内でガンアクションが出来ない(やってもいいんだけどリアリティの問題が出てしまう)、日本にCIAやFBIみたいなネタにしやすい組織がない(自衛隊とか?)など、いろいろ制約があるように思うのです。でも、外交官なら海外に行くし(舞台が日本にならない)、なんと言ってもスパイ要素の一つである堪能な語学力が観られるかも、とちょっと期待していました。まあスパイものではなかったんですけれども。


内容はというと、ちょっと残念でした。まあ私自身かなりハリウッド脳なので、日本の映画の良い所をかなり見落としてる感じではあるんですが、この映画どこまでも「日本の」ドラマなんですね。海外でロケをしているけれど、舞台を東京にして犯人グループを外国人にしてもなんら支障がないと思う。イタリアで大変なことになりました!という感じがなんだか伝わってこないのです。前掲した、海外の本来の心細さというのが、研修生の子(戸田恵梨香さん)のたどたどしいイタリア語でしか垣間見えないのです。確かに矢上(天海祐希さん)の子どもと引き離された母親の演技が本当に素晴らしかったのですが、この「外界での心細さ」にはあまり貢献していないように感じました。うーん、期待している部分がズレているのか。
それと何故か役者の正面を撮ってしまうカットが多くて、それがところどころ豪華な空撮シーンと一緒にされるというね。親子のか細いつながりのスリルや日本的なロマンスの盛り込み方、ミステリ要素はなかなか面白かったし、音楽もとても映画らしい豪華さで良かったんですが、どうして役者さんの顔ばかりのカットなのかずっと疑問でした。最後の方はかなりお腹いっぱいだったよ。黒田を演じた織田裕二さんも天海祐希さんも確かに画面映えのする顔だけど、表情だけで物語る展開ばっかりな印象が残ってしまいました。


それでも黒田のCQCばりのアクションはかなり良かったです。惜しいのはそういうシーンがとても少ない事なんですが…。もっと観たかったなあ。日本的なロマンス、あの他人の人生に踏み込む/踏み込まないっていうあの微妙な距離感。矢上に背を向けて渋滞の中を走り去る黒田の背中はとても色気があって素敵でした。