「超弦領域 年刊日本SF傑作選2008」



超弦領域 年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

超弦領域 年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)



2007年傑作選「虚構機関」が去年末に出ていたので、勝手に傑作選は年末だと思ってたら、既に出ていました。今回もボリュームたっぷりでお買い得。

推理小説にもロボット工学三原則みたいなルールがあるんだと初めて知りました。これ、ネタじゃないよね。どこに着地するのか分からない物語、もっともらしいテクノロジー。SFの面白い所はどれだけ真面目にホラが吹けるかというところにあると思うのですが、これはかなりつっこみどころがあって面白かったです。

  • 「エイミーの敗北」(林 巧)

高度なテクノロジーに囲まれた世界と神隠しの不思議な融合。童謡の世界の寂しさとテクノロジーの冷たさが妙にシンクロしていて良かったです。

これは物語の構造をちゃんと把握してないと「読めない」んだろうなあ。なんとなく、つぎはぎの人間(怪物)と、色々な要素を抱え持つ社会や文化(フランケン)が対称に向かい合っているような感じなんでしょうか。こういうのを一発で「読める」人になりたいけど、難しいなあ。

時間SFもので、こういうのが描けるんだなあと感心しました。浸食の描写が陰気で湿っぽくて独特の雰囲気。

不思議な現象を扱うSFは数多くあるけど、人の一生という現象も俯瞰するとなかなかに不思議だなあと思います。

確かに胡蝶蘭て、一種独特というか、花の割に控えめじゃない感じがあるなあと妙に納得しながら読みました。お話の中でこの花は「わたし」の嫉妬深い一面を担っているかも。

  • 「分数アパート」(岸本佐和子)

ここに書かれているような本当にどうでもいいことを、ぼんやりと考えている時間が私には必要だなあと最近よく思います。分数アパートで私と一緒に消えてくれる人は、多分ぼんやりしている人に違いないのです。

  • 「眠り課」(石川美南)

ショートショートのSFがどうしてSFとして成り立つのかを考えた時、ストーリーでもなく設定でもなくましてキャラクターでもなく、構造がSFだからかな、と考えた事があります。字数の制限のある短歌ならではの言葉選びによる世界観の広がりがSFしてて良かったです。

読んでいる内に、些細な事実が意外な意味を持ったり、推測とは違う事実が立ち現れたり、コントロール可能な物語とは違ってノンフィクションはそういう意図しない部分が面白いと思いました。

  • 「すべてはマグロのためだった」(Boichi)

素晴らしくバカバカしいのにピンポイントでしっかりとSFネタを仕込む展開、クラークの物語のような壮大なエンディングがとても素敵でした。メカの絵がすごくいい。

この話好きだ!これ以上言う事なんてない。イラストの内藤さんの、挿絵にも全力な姿勢が素晴らしいです。残りの魔人たちの話は内藤さんの漫画で読みたい!

  • 「笑う闇」(堀 晃)

機械と人間とのインターフェースとして漫才のボケとツッコミが再現出来たら、すごいだろうなと考えた事があります。「まいど1号」とか*1、大阪は意外とSF都市なんですよね。将来は大阪弁でしゃべくるロボットとかに介護されてみたい。

幼年期が終わった人類の、反抗期の始まり。C.クラークのフォーマットで読むヒーローの物語、というとちょっと変な感じもしますが、これはかなり面白かったです。ちょこちょこ出てくる下位機械の個性がかわいい。

  • 「ムーンシャイン」(円城 塔)

いつも「心して」読む円城さんの作品ですが、今回は割とリラックスして読めました。いや、相変わらず置いてかれてるんですけれども。数学に先天的な才能を持つ人々、言語よりも先に式を表現の道具としてしまった人々には、世界はこんな風に見えているのかもしれません。その数学的な美しさが、どこか哀しげな風景として描かれているのが印象的でした。

この作品が読みたかったのです。少ないページの中にとてつもない密度で織り込まれている物語が、読むと同時に次々と溢れ出て来るようでした。執拗に語ることで自分であり続けようとする静かな焦燥感と、広がって行く余白に他者から何も書き込まれない孤独が、淡々と綴られていて救いようもなく哀しい。その哀しさが鮮烈に胸に残りました。

*1:最近資金難で頓挫してしまったけど