「ココ・アヴァン・シャネル」



ブランドのアイテムを一つも持っていない私でも、「シャネルの5番」くらいは知っている、そんな超有名なブランドを作り上げた一人の女性の物語。


オドレイ・トトゥはそれほど美しい女優ではないと思う。確かに大きくてくりくりした黒い瞳はとても愛嬌があるけど、ちょっと頬が痩けているし髪もごわごわだ。とびっきりグラマラスな身体というわけでもないし、どちらかというと腰が少女のように華奢で頼りない。でもこの映画の中で、彼女は本当に多彩な顔を見せる。少女のように弾んだ笑顔、老女のように疲れ果てた顔、未来へ不安を感じる人間の顔、男をしたたかに利用する女の顔、恋をして瞳に涙をうかべる一人の女性の顔。実年齢に関係なく少女から老女までを内包出来る女優さんというのはあまり多くない。年をとっても少女らしさを表現出来る女優さんはいるけど、これほど広いレンジの「女性」を持っているのは私が知っている限り彼女だけですね。それと彼女は光の挿し方一つで劇的に表情が変わる。この映画はヨーロッパの画家が描いた絵画のような光の使い方をしていて、とにかく全体が薄暗い。そこに柔らかく夕暮れ時のような光が差し込んできたりするんですが、その濃淡をとても美しく出せる顔なんですよね。自ら光り輝くのではなく、映画のある瞬間にはっとする輝きを放つ。キスシーンの美しさや初めて海を見た時の少女のように屈託のない笑顔が強く印象に残りました。


お話の方はどちらかというとココという一人の女性の自立を恋愛と絡めて描いているように思いました。この時代に女性が一人で生きて行こうとするのは、想像を絶するような勇気が要ったと思うのですが、そういう部分をとても丁寧に描いていて面白かったですね。(ちょっと丁寧すぎるかなとも思ったけど)この時代パトロンのバルザンのようなやや女性を軽視しているような人物は普通だったんでしょう。彼はネガティブにココの人生を動機付けたと思うのですが、なかなか面倒見が良くて憎めない雰囲気がとても良かったです。こういう人物描写に深みがあるとフランス映画って気がする。もう一人の男性ボーイの方はポジティブな動機付けなんでしょう。それも直球のポジティブではなく恋愛を挟むあたりフランス映画って気がします(笑)