(500)日のサマー



映画館に行くと女性が多いんですよね、レディースディに限らず。まあ、彼女に連れてこられた彼氏とか、奥さんに付き合わされた旦那さんとか、子ども達を連れたお父さんとか、誰かを伴った男性はよく見かけるんだけど、本当に男の人ってどこにいるんだ?と、思っていたらちゃんと居ました。この映画、きっと男性の方が深く共感できる映画なんじゃないかなと思います。とってもキュートでクールな女子サマーと、ロマンチックでセンチメンタルな男子トムの、ちょっと切ない恋愛模様を描いた物語。


この映画で一番素晴らしかったのは、トムがサマーに向ける眼差しでした。恋ではち切れそうなトムに対して、サマーはちょっとクールなんですよね。そんなトムの、サマーがすごくかわいくて困ってしまう感じと、どうにかしてもっと仲良くなりたい!っていう熱望を、「いい人」の柔らかさで包んだ眼差しがすごく素敵でした。視線にたっぷりと湿度が含まれてるんだけど、その潤いが一滴たりともサマーに届かないのがまた素晴らしく切ないんですよね。恋をする男性の姿というのはすごく面白くて、とても自信満々だったり、恐ろしく意気消沈していたりするのに、なかなかそれを見せてくれない。絶対心の中ではディズニー映画ばりのミュージカル演じてるはずなのに!でもこの映画では、そんなかっこわるいところがたくさん見ることができて、心が温かくなりました。
一方で、恋愛の情熱を別の夢に転換する後半のシークエンスがあるのですが、そこでトムが見せた真剣な眼差しはすごくぐっときました。恋愛でデレデレしている男性もいいけど、やっぱり何かに狙いを定めている時の視線がいいんですよね、女としては。


男の人って時々ものすごくロマンチックなところがあって、その女性顔負けの繊細さに驚いてしまう事があります。サマーの過去の恋愛歴に想像、いや妄想を膨らませたり、あばたもえくぼみたいに思っていた翌日には、すべてが大嫌い!になっていたり。うわあ、それ女子の領分だよ!こういうことがあるから男性の扱いってどうしていいか分からない。笑い飛ばすわけにもいかないしね。かといって一緒にセンチメンタルになるには、何かが異質なんですよね。女性の扱いは難しいと言うなら、こういう点において男性の扱いは非常に気を使うところだなあとしみじみ思いました。そんなロマンチックで傷つきやすい男心をトムの妹(多分10歳以上離れてる)が、貫禄たっぷり(笑)に慰めたり励ましたりするのがすごく面白かったですね。うちにも一人こういう妹いたらいいのになあ。


一方で現実と期待の間で勝手に傷ついたり、片思いを自覚しながら気持ちを止められない葛藤は、女性が主人公の恋愛映画よりも共感出来ましたね。
特に印象的だったのは、共通の友人の結婚式に出席するために乗った列車で、二人が鉢合わせするシーン。他の人が見たらきっと仲のいいカップルに見えたかもしれない。だけど二人の内奥にはもうどうしようもない距離が存在していて、二人ともそれを自覚しているんだけど、そのどうしようもなさを他愛ないおしゃべりとコーヒーで押し隠している。たったそれだけのシーンなのに、なんだか泣けてしょうがなかったですね。全体的にトムがサマーに振り回されて情けない笑顔を浮かべる度に面白くそして切なくて、非常にいい映画でした。