「ラブリーボーン」



「ゴースト ニューヨークの幻」を観たのは確か中学か高校生くらいだったかなあ。ろくろを回して粘土をコネコネしながら濃厚なキスをするシーンがすごく色っぽくてどきどきしたのを覚えています。もしあの時この映画を観ていたら、きっとあの甘くて儚いキスシーンに夢中になっていたはず。いやあ、今の私の歳なら「ゴースト〜」の方がぴったりなのに、10代の時にこっち観たかったわ。


ちょっとネタバレしています。






心残りを残して死んだ者がその想いを遂げるまで天国に行くことができない、という物語も、死者が生者に対して何かを働きかけようとする展開も、「ゴースト ニューヨークの幻」と同じなんですよね。でもやっぱり違うところもあると思うので、そこをちょっと挙げてみます。
これは恋愛の成就の話でもあるけれど、家族の再生の話でもあると思います。終盤、犯人の手がかりを得た妹が家に帰り着くと、(娘を失った辛さから逃げるために)家を出て行った母親が戻って来ていて、父親と復縁するというエピソードがあるんですが、ここで妹はその証拠を一瞬手放そうと躊躇うシーンがあります。それはせっかく戻って来た母親の傷をまた広げるようなことはしたくなかったからだと思うのですが、ここにそのテーマが表現されていると思うんですね。ここで秤にかけられているのは、真実と生活なんです。生きている者は、この先もずっと生きて行かなければならないから、真実によってそれが困難になるならいっそ知らない方がいいのかもしれない。再生に必要なのは真実ではなくて、時間や人と人との関係だということをこの物語は主張しているように思います。最後まで物語の中で真相は明らかにされません。(観客には明らかにするけど)それは事件の真実よりも、この先も生き続けて行く人々の人生の方に焦点を当てているからだと思いましたね。
そしてこれは成就の物語でもあるのですが、眠り姫がキスで目覚めるように、最初のキスで永遠の眠りにつくなんて、なんてロマンチックな話だろうなと思います。


キャストの中で一番良いなと思ったのは、下世話で世俗の塊のような祖母と孫の男の子でした。彼女は死者の世界に引きずり込まれそうな家族をこの世につなぎ止める役を担っているんじゃないかと思います。このおばあちゃんと孫の男の子のやりとりが物語の中で妙にくっきりと明るく浮き上がっていて印象的でした。小さい子というのは死の世界(というかこの世とは別の世界)に近い存在であると思うんですよね。そして老人というのは確実に死に近い存在なわけで、その二人がこの世で楽しそうにきゃっきゃっと笑い声を上げてはしゃいでいる姿というのは、この世界に出現した小さな天国のように思いました。