「猫の地球儀」

友だちが貸してくれました。ありがとう。これ結構有名な作品なんだね。

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

猫の地球儀〈その2〉幽の章 (電撃文庫)

猫の地球儀〈その2〉幽の章 (電撃文庫)

1960年代、アメリカのNASAが初めて宇宙に送った生物は猿だった。一方、いろいろな方面で張り合っていたソ連は犬を選んだ。当時を知る人はこう言う。「犬猿の仲ってね☆」それ、日本人にしか通用しないじゃん。

メタファという言葉があります。簡単に言うと例え話のこと。難しい事でも既に知っている事に例えると分かりやすい。そしてこの物語はそのメタファそのものです。SFをよく読む/観る人なら、最初に説明される「トルク」と呼ばれる猫たちの住む地球軌道上に浮かぶものが、シリンダー型のスペースコロニーだと気づきます。(まあ別に気づかなくても問題ないですが)最初からスペースコロニーという言葉を使わずにトルクという別の言い換えをする、この変換を通して現実世界から別の世界に話がぐぐっと広がって行く。その例え話の広がりこそ、メタファの面白さだと思います。物語はちょっと大袈裟に風呂敷広げた方が面白いってのは言うまでもなく。そしてその広げ方が本当に巧い。ただ事実の例えを連ねるのではなく、そこに存在し得るであろう考え方や習慣が自然に文脈に挿入されていて、世界設定に奥行きがあるんですね。中でも感心したのは、『トルクは地球(義)の回りを円を描くように回っている』という世界観から来るおまじないとしての「しりとり」。円を描く=エンドレス=しりとり、という発想がすごく納得できて素晴らしいなと思いました。
さらにこの作品が非常に優れている点は、猫を物語の中心に据えながら擬人化を極力回避しているところ。まあそりゃ猫が主体でしゃべったり考えたりしている部分はどうしても人間っぽくなりますが、行動や仕草といった外見は私たちのよく知る猫のままなんですよね。例えば、一番猫らしいと私が感じたのはキャラクターの一人(一匹?)である楽(かぐら)の振る舞いです。気まぐれな思考回路やはっきりした好き嫌いとか楽しい時と楽しくない時の落差なんかが、目の前に猫が居たらこんな感じ、という具合に描かれていてすごく和みました。焔(ほむら)みたいな猫はあまり飼いたくないな(笑)
そしてこの物語は個々のキャラクターの結末を回避します。特に天才たちの最期は絶対に見せません。それは結論を中途半端に放棄しているのではなく、読み手の想像の中にだけ結末を存在させるための方法なのだと思います。だからこの物語のキャラクターは犬でも猿でもなく猫なんですよね。死に際を見せないなんてことをするのは、猫くらいですから。