「レスラー」

レスラー スペシャル・エディション [DVD]

レスラー スペシャル・エディション [DVD]

年老いて行くということは、それまで築いて来たものを失っていく過程です。そうやって過去の栄光やら、財産やら愛情やらを削ぎ落とされて、それでも残るものがあるとしたら、それは自分自身への承認のようなものなのかもしれません。て、書くとなにか違うんですよ。こんな言葉ではとても表現しきれない、言葉で何かを伝える種類の映画ではないんですよ。

あることをきっかけに、主人公は長く疎遠となっていた娘と再会するのですが、そのシーンで主人公は素直に娘に「孤独で寂しい」と伝えます。いい年した大人の男が、ぼろぼろと泣きながら。そんな主人公から伝わってくるのは、惨めさもあるし情けなさもあるけど、強さなんですよね。よく「自分が弱いということを認めることこそ強い」なんて言われたりしますけど、まさにそれ。そしてそういう強さを身につけている主人公の、戦う意志が底辺に静かに横たわっているように思えるのです。この戦う意志が、ずっとこの映画の基礎部分に流れているような気がして、主人公はそういう場所(リング)でしか生きてこれなかった。不器用な男、という一言で済んでしまうけど、その言葉のフチに広がっているものを、主人公の背中を追いかけるカメラアングルで、分かりやすく上手く切り取っているんですよね。
でも、それだけだと単に英雄の末路という感傷的すぎるお話になってしまうのですが、そこへカウンターパートとしてストリッパーの女性を登場させているのが興味深くて、彼女もまた舞台の上での人生と、生身の一人の女性としての人生の二つを生きているんですよね。彼女は舞台の上での人生を、主人公とは違う意味で「別のもの」としているんだと思います。彼女はお金の為と割り切って、舞台に上がっている。でも主人公の方は、お金の為というよりかは自分自身に自分の強さを証明するために、リングに上がっているようなところがある。これは、空中キャンプさんこと伊藤聡さんの著書「生きる技術は名作に学べ」の中でも取り上げられているように、男性にはどこかそういう、常に自分に勝ち続けなければいけない部分があるのでしょう。まあ女性にだって、ある程度はそういう自分で自分を認められる部分がないと辛いですけどね。そういう、常に証明し続けることが、この映画では戦い続ける意志として表現されているのだと思います。
こういう男性を見ていて思うのは、もう生まれ持った性を今さらどうこうするよりかは好きにさせてやりたい気がしますね。馬に走るなと言っても、いるかに泳ぐなと言っても無駄なこと。まあこういう人は言わなくても勝手にするでしょうけどね。