「E.G.コンバット」

E.G.コンバット (2nd) (電撃文庫 (0307))

E.G.コンバット (2nd) (電撃文庫 (0307))


謎の宇宙生命体に襲撃され、存亡の危機に陥った人類は、月に女性を避難させ、地球では男性が戦っている。そういう世界の月にある救世軍候補生訓練施設を舞台に、候補生とかつて生徒だった教官が繰り広げる物語。

というお話なので、ほとんど若い女性しか登場しません。明らかに対象外な私には萌えどころがなさそうなのでどうかなあと思ったのですが、想像していたよりキャラクター造形が多面的で共感できるところもあり、なかなか面白かったです。書き手は、先日読んだ「猫と地球儀」の秋山瑞人さん。軽く読ませる割には、しっかりと印象付ける、個性的な文章を書く人だなあという印象です。アクションシーンの描写が迫力と緊張感があって好きです。小ネタもさりげなくちゃっかりと盛り込まれてて、よく本や映画を観てるなあという知識ベースの深さを感じさせますね。

一巻は、主人公ルノアがライバルの罠にはまり、救世軍のエリートコースから外されて、ちょう落ちこぼれ訓練生の教官になるという筋立て。なんだか似たような物語を読んだことがあるなあと言う既視感がちょっと興を削ぐのは避けられなかったけど、主人公が一人の女の子として新たな世界に飛び込んで行く不安や緊張がとても身に迫る感じがして良かったですね。お腹痛くなりそう(笑)ただやっぱり訓練生五人の生徒のキャラクター造形がテンプレートにはめられてしまっているのがもったいないなあと感じました。いや、こういう典型的なキャラにした理由は分かるんだけど、やっぱり最初は軽く引いてしまいましたね。なにかそのキャラクターの考え方や行動に思うところがないと、うまく彼女らの気持ちが読み込めないなあと思っていましたが、その辺のバランスがちょっと偏っていて、主人公のルノアは割と「とっかかり」がたくさんあって面白いなと思えたのですが、おとぼけキャラのチャーミーがちょっと入り込みづらかったですね。意図的に正体不明にしているペスカトーレなんかは、まあそういうやつなんだろうと思ったので、割と道化師的な立ち振る舞いが楽しめたのですが。一方で、彼女やその生徒たちを含む世界の有様が少しずつ明らかになって行くのですが、そういう部分の描き方、興味のひきつけ方がとても上手くて良かったです。

二巻は、一巻に続きドタバタとしたドラマを前面に展開させながら、ここにきて一巻でぼんやりとしか描いていなかった世界を少しはっきりさせた感じでしょうか。もしこの物語を単にドタバタコメディとして楽しませることだけを意図しているなら、内側(この作品で言うと訓練施設)に集約してしまった方が多分楽なんだと思うんですよね。ゲーム的というか、設定した範囲外は存在しないという風に。でも「猫の地球儀」でもそうであったように、作者さんはキャラクターは必ず世界と直面している、という部分を描いているように思います。この二巻はそういう世界と直面する個々の姿勢が主軸となっているように思いました。ここでちょっとびっくりしたのは、一巻の様子とはうってかわって、きゃあきゃあ無邪気に騒いでいるような10代20代の女の子たちに、かなり深刻な世界を背負わせているということ。表紙絵や挿絵のビジュアルに惑わされているのかもしれないけど(というか二巻は乳がでかすぎて一瞬顔がどこか分からなかった)、こんなちゃらちゃらしたキャラクターでこんな重いもの引き受けさせるのか、という意外さが印象的でしたね。そしてこういうものを背負わせるために敢えて、典型的なキャラクターを用意しておいたんじゃないかなと思います。あまり書くとネタバレになってしまうのですが、典型的なキャラクターの別の顔、多面性を描くことで、まっくろで重たい世界に対峙する強度を作り出しているのではないでしょうか。

そして多分この物語は続いていると思うのですが、そういう多面性を持つ女の子たちが、そういうまっくろで虚ろな世界をくぐり抜けて生き延びたその後、いったいどんなお話しになるんでしょうかね。読める機会があるといいんですが。