ももへの手紙

「お父さんなんかもう帰って来なくていいよ」。些細なことから父に向かって言ってしまった冷たい言葉が最後の会話となってしまった、もも。母は夫との想い出の残る東京から離れることを決め、ももは母と共に母の生まれ故郷の瀬戸内海の島へと引っ越し新しい生活を始める。そんな生活になかなか慣れないももの周囲で、不思議な出来事が起るー。


正直に言えばストーリーそのものは良かったのですが、展開が蛇足だったり、唐突だったりして少し残念でした。うーん、あの「人狼」の沖浦監督なので、その辺はけっこう期待してたんだけどなあ。状況の説明が丁寧なのはいいとしても、終盤のエピソードは中盤くらいで消化しておいて欲しかったですね。なんだか取ってつけたように「その後こうなりました」と言われているような気がしてしまって。ちょっとネタバレるけど、最後はあの時計が鳴るシーンで終わって良かったんじゃないかなあ。
それと終盤にかかるクライマックスが唐突に終わってしまうのも気になりました。あ、あれ?ってなってしまう。いや、想像はできますよ。きっとこうなったんだろうなって。でもそこは具体的な絵じゃなくて台詞でも何か説明があれば良かったですね。なんだろう、ここまで丁寧に描かれていたのに唐突に突き放されたような感じに何か違和感があったんですよね。


一方で絵の方は期待どおり素晴らしくて良かったです。背景の絵がすごく実写的であまりアニメーションっぽくデフォルメされていないんですが、単に写真を書き写した、というのでもないんですよね。例えば、ももが引っ越し先の家に何かが居る!と驚いて家から飛び出して街の中を走り抜けて行くシークエンス、家と家の隙間にある小物や瓦屋根の細かさ、そういう中にぬっと建ってる電信柱の生活感とか、きちんとそこにある感じ、その中をキャラクターが走ってる感じが出ているんですよね。でもそれは実際にそこにある場所という感じではなくて、やっぱり少し現実から離れたところに存在するっていう距離感もあるんですよ。うーん、説明が難しいけど、その「ありそうでなさそう」な雰囲気がすごく素敵でしたね。
キャラクターもそういう実写的な背景に違和感のないデザインで、それでいてアニメっぽい仕草もできるような感じなんですよね。


キャラクターで良かったのはお母さんでしたね。声を担当した優香さんがすごく上手で、てきぱきと生活を回して行く明るさや、愛する人を失った悲しみをさりげなく押し隠す強さ(というか弱さでもあるんですが)が自然に出ていて良かったですね。それとイワという妖怪を演じた、西田敏行さん。いやーこの人以外あり得ないキャスティング(笑)この三妖怪はストーリーの中ではギャグを担う部分が大きかったんですが、息のあったボケつっこみですごく面白かったです。