ボーン・レガシー

知力体力を極限まで鍛え上げた工作員が世界を飛び回りながら巨大な敵と戦うボーンシリーズ最新作。今作は前3部のジェイソン・ボーンが消息を絶った直後から始まり、主人公はボーンとは別の作戦に従事していたアーロン・クロス(ジェレミー・レナー)。

ボーンシリーズの魅力をちょっと振り返ってみる。主人公強い。でもその強いっていうのは、アメコミ的な超人さじゃなくてすごくリアリティのある、それでいてフィクションとして魅力的な強さ。このリアリティ部分を支えているのが「日用雑貨で戦う」という部分だと思うのね。だってジェイソン・ボーンがひとたびボールペンを手に取ったらそれはもうコンバットナイフよりもたちの悪い武器になってしまうんだもの(笑)恐ろしいよボーン。一緒に働きたくないよ。今作のアーロンもそれをきっちりと受け継いでいて、登山グッズを防具にしたり地下のガスボンベ(ちなみにガスボンベ利用はMr&Msスミスでもあったね)使ったりとボーンに比べてアウトドア派。一緒に登山行きたくないよ。(ちなみに冒頭のあの崖越えはないわーw)そんな庶民感覚を取り入れながら、この人たちは恐るべき速さであっという間に敵を倒したり一瞬で家の間取りとか車のナンバー把握したりと心身ともに度を超えて磨き上げられているところが有り得なくてすごく面白いんだよね。

ボーンシリーズのストーリーをちょっと振り返ってみる。えーとうろ覚えだな。ジェイソン・ボーンは自ら望んでエージェントになったわけじゃなかったと思う。でもそういう組織に属していたってことは半分は自分の判断でもあるんだよね。そして彼は最愛の人を喪う。まるでそれまで犯して来た罪をそれで帳消しにするみたいに。ボーンシリーズの三部は組織からの脱却と罪滅ぼしを同時に進行させた物語だったんじゃないかな。何かを積み上げて、何かを減らして、プラマイゼロにする。それに対して今作は、アーロンという一人の何も持たない普通の男が自分の心身を犠牲にして得た超人的な力で、その力を与えた組織から全力で逃げ出す物語。自分の意思を差し出して、自由を得るような。だからアーロンが差し出せば差し出すほど、組織はそれを逃がすまいと執拗に狡猾に追いつめて行く。その加速度が後半の怒濤の追走劇によく現れていて圧倒された。あれはすごい。あんなに目まぐるしいカットなのに、きちんと繋がってる。追う方と追われる方とカットがとんとんと気持ちよく切られてって、それでいて両者がどうなっているのかが分かるようにフレーミングされてる。途中に入るバイクのアクセルを踏み込むカットとかアクセントも絶妙で、観た目がすごく気持ちいい。こういうのやっぱり小説ではちょっとスピード感出ないものね。

ボーンシリーズのもう一つの魅力は、あの司令室の緊張感だと思う。エージェントたちのぎりぎりの機転を利かせた逃亡を執拗にそれでいて冷淡に追いつめる、あの冷たい熱気みたいな空気感。早口に飛び交う指示に、一列に並んだオペレーターたちの画面に集中する眼差しとか。主役が急に居なくなった舞台でそれでもお芝居を強引にすすめようとするかのような、その場その場で書き換えられるシナリオに即興で振りをつけて行く演出のようなそんな感じ。エドワード・ノートンはそのリアルタイムな演出家に相応しいキャスティングだったな。この人が口を半開きにして瞬きせずにじっとしていると、あ、この人今脳内でもう一人の自分とすごい勢いで会話しているって感じがする(笑)大声を上げて罵ったり、パニックに叫び出したら負けだ、ときっちり自分の中で線引きしている演技がすごくよかった。