アルゴ

!!! ネタバレ !!!






「こちらスネーク。大佐、聞こえるか?」
「良好だスネーク。そちらの状況は?」
「ここからでは中の様子は分からないな。過激派が多すぎる」
「スネーク、絶対に見つかるな」
「分かっている。それで今回の作戦は?」
「今回の君の役割はエージェントだ」
工作員(エージェント)?いつもどおりじゃないか」
「違う。今回、君は偽映画のロケハンに訪れた映画製作のエージェントとして潜入、カナダ大使の元に潜伏しているアメリカ人六人を映画のクルーに偽装し航空機で国境を越える」
「なんだって?」
「安心しろ。一応長官の許可は取った」
「…こんな馬鹿げた作戦がよく通ったな」
「地下にトンネルを掘るよりましだろう」
「それもそうだな。了解した。これより偽映画「アルゴ」作戦を開始する!」

ゲームマニアなネタはさておき。

冒頭、何故アメリカ人6人が身を隠すことになったのか、世界的な情勢がどうなっているのかというのが説明されるんだけど、これがすごく硬派なのね。ドキュメンタリーのように淡々と事実を挙げていって、大勢のイランの人々の怒りや屈辱が渦を巻くように在米大使館を飲み込んで行く。そこにはフィクションの入り込む余地がまったくなくて、こんな偽映画大作戦なんて冗談が入り込む隙間もない。本当にこれ、そういう話になるんだろうかと不安になってしまった。もっと明るいハリウッド的な馬鹿馬鹿しさの中でどうにかなるんだと思ってたから、いきなり実話がシビアで驚いた。
でもそうじゃなかったのね。これ、フィクションとリアルが火花を散らして主導権を争う話だった。だからリアルはとことんリアルに、フィクションはとことん浮いてる。劇中、映画「アルゴ」のプロモーション(映画の信憑性を高めるためにこんなことまでするんだ!)で、役者が衣装を着けて台本の読み合わせを披露しているシーンと、人質に取られた鎮圧部隊の兵士たちが処刑されそうになるシーンが、オーバーラップするシークエンスがあるんだけど、それが正にリアルとフィクションがしのぎを削る部分に思えたな。
それと実話の映画化という現実の側から創られたこの映画が、現実をひっくり返す映画そのものになっている、というメタなクロスオーバーもあるんじゃないかな。物語って現実とかけ離れたところにあるのではなく、常に側にあって人を触媒として現実へと浸透している。物語もまた現実を動かすものの一つで、そして人が生み出せる数少ないものでもあるんだよね。

そしてそれ以上に面白いのが終盤の国境越え!もうこんなすごいオーバー・ザ・フェンスは「大脱走」以来だよ!すごいすごい!CIAから派遣されたトニー(ベン・アフレック)はいいとして、他の六人は特殊な訓練なんて受けてない普通の人なんだよね。それが映画のクルーになりきって空港の出国審査を通過する時の緊張感ったらもう!こんなのゲームでもなかなかないよ!しかもそれを率いるトニー役のベン・アフレックのあの自身の無さげな顔。目が細すぎるよ!もっと開いてー。六人それぞれの緊張が今にも破裂しそうなギリギリ感もよく出ていたし、一同に問いつめるイラン人兵士たちの鋭い問いかけ(しかも何言ってるのか分からない)とか厳しい表情がスリルをうまく引き立ててたなあ。(MGS2のプラント編で敵兵に変装して変な動きした時に覗き込まれる、あれと同じ感じ)
あのシーンはこの緊張感もすごく面白かったんだけど、よく知らない文化圏ではむやみに笑わない方がいいな、となんとなく思ったのね。たぶん私ならへらへら笑って逆に怒りを買ってしまいそう…。でも反対に映画の絵コンテもらって喜んだ兵士たちの顔をみて、映画が大衆に受けるのってすごく良くわかるなと思った。

そうこの映画、「大脱走」をどことなく彷彿とさせて、私は途中でうっかり誰かアメリカ人ぽい振る舞いをしてバレやしないかハラハラしてた。あと作戦立案時に、「トンネルでも掘れば」とか誰か言い出さないかなーとか思ってたりして(笑)ちなみに最後の最後でもメタルギアソリッド好きな人は「これは(笑)」な展開なのでおすすめ。トニーは長官と握手したのかしら(笑)