レ・ミゼラブル

あらすじ
パンを盗んだ罪で19年間投獄されたジャン・バルジャンは、ようやく仮釈放されたものの犯罪者の刻印を押され、仕事を得ることもできず無宿の生活を強いられる。その刻印は訪れた集落の人々の嫌悪と反感を呼び、ジャン・バルジャンは石を投げられ迫害されるのだった。地獄のようなどん底ジャン・バルジャンは悪に心が傾き、救いの手を差し伸べた修道院から銀製品を盗んでしまう。逃亡はあっけなく終わり、捕縛されたジャン・バルジャンは救い主である司教の前に引き出される。しかし司教はそんな彼を赦し、さらに銀の燭台すら差し出した。その司教の広い心にうたれたジャン・バルジャンは改心を決意するが、仮釈放から戻らない彼をジャベール警部は執拗に追いかけるのだった。


ミュージカル「レ・ミゼラブル」の映画化です。なので、なんといっても歌が主役!最初は役者さんが歌う場面に戸惑いましたが(なんといってもあのラッセル・クロウが歌ってるのはびっくり)けっこう慣れるものですね。ちなみに「サウンド・オブ・ミュージック」や「ウエストサイドストーリー」をほとんどリアルタイムで観たうちの親は全然違和感なかったそうです。ていうかそんな名作観てきたのすごいよお母さん…。

というわけで歌ですが、これ、フライヤー(ちらし)読んだらその場で演技しながら歌ってるそうですね。そういう演出の効果もあるのか、やっぱり迫力がありました。確かに普通の映画のいいセリフだってリズムや抑揚があるし、それが歌に乗ったらすごいに決まってますよね。特に強く印象的だったのが、ジャン・バルジャンが改心する場面と、フォンティーヌが船底で歌う歌、ジャベールのジャン・バルジャンを執拗に追いかける決意をするシーンですね。
特にフォンティーヌのあの歌は役者のアン・ハサウェイの表情と相まって、胸に迫るいい歌でした。途中でね、感極まりすぎて「ひくっ」てなるのがもうね。悲しみが溢れてしまってどうしようもない、溺れてしまいそう。そんな感じがすごく出ていて感動的でした。それとジャベール警部役のラッセル・クロウ。この人すきなんですよねー。建物の高いところに立って、彫像や遠くの塔(ノートルダム寺院かな?)を背景に、固い決意を朗々と歌い上げるシーン。あーしつこい!と思いつつもすごく素敵でした。

普段映画では歌はあまり表に立つことがありません。セリフとかぶるし、挿入かエンディングくらいしか聞かないんですよね。でもこうやって歌を主体にすると、その物語を動かしていく力に圧倒されます。映画は俳優の演技やセリフ、背景や小道具、証明やカメラのズーム/クローズ、もちろん音楽などなど多くの要素をスクリーンに投入して物語を動かしていきます。でもこの映画では、歌以外のほかの要素はずいぶん抑えられるんだなあと感じました。いつもなら音楽がかかるシーンはたいてい画面は動いてるし、役者さんも演技を続行している。でもこの映画の歌のシーンはそういう映画の文法からは外れて、歌のシーンは役者さんは歌うだけ(もちろん表情や細かい演技はしているけど)、背景は極力動かない、カメラも固定したものが多いんですよね。これは映画というより舞台の切り取り方に近いんじゃないかな。でも歌と歌い手をじっくりと見せることを考えたら、この演出はとてもシンプルで伝わりやすいなあと思いました。それになかなか普通の映画では役者さんが歌うところは見られないしね。

そしてすごいのは歌だけを際立たせてもきちんと映画として成立する、物語を動かしていけるところ。これはもちろん役者さんたち一人一人の個々の歌唱力もあるんですが、合唱で歌うシーンの力も大きいと思うんですよね。個々の役者さんたちが歌うのは個人の小さなエピソードなんですが、合唱曲になるとすべての人が寄り集まった大きな時代の流れの歌になる。物語の視点はそういう個と全体に接近したり離れたりしながら、一枚の旗のような絵を完成させているんじゃないかなとおもいます。ラストの合唱は本当に感動的でした。