STEINS;GATE

Steins;Gate(通常版) - PSP

Steins;Gate(通常版) - PSP

あらすじ

人類の支配を目論む「機関」と敵対し、科学の力によって地上に混沌をもたらすべく、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真は少女まゆりを人質に戦いの日々を送っていた。
という「設定」でふつーに生活する大学生の岡部倫太郎は秋葉原の隅に「研究所」と称した部屋を借りて夏休みをタイムマシンとは名ばかりの怪しいガジェット制作に注ぎ込んでいた。同じく幼なじみのまゆり(人質ではない)も研究所に顔を出しては、コスプレ衣装の制作に余念がない。倫太郎の友人ダル(橋田至)も時々顔を出し、平和な夏休みを過ごしていた。ある日、倫太郎とまゆりはアキバのラジオ館で開催される「タイムマシン発表会」というイベントに参加する。その会場で倫太郎は、若年で論文がサイエンス誌に掲載された天才少女牧瀬クリスと出会う。しかし突如ラジオ館に轟音が響き、その会場ではなぜかクリスが何者かに刺殺された。脈絡のない出来事に混乱した倫太郎はまゆりを連れてラジオ館を飛び出す。ダルに事件の経緯を知らせるメールを送った瞬間、夏休み中の人々で賑わうアキバから人がいっせいに消えた。その瞬間から倫太郎は奇妙な時間を彷徨うこととなった。

いま気づいたけど。「凶気」とマッドサイエンティストのマッドがかぶってるんですね。いやまあいいんだけど。

もしも時間を遡れたら、あの時の選択をやり直したい。ゲームに限らず、映画やSF小説の「時間もの」はそんな切ない後悔と儚い希望に満ちている気がします。この作品も例外なくそんな切なさと希望と、そして深い絶望を感じた作品でした。

このゲームの冒頭で「バタフライ効果」という言葉が出てくるのですが、ここではその名前と同じ映画「バタフライエフェクト」と少し比較してみたいと思います。バタフライエフェクトでは、バットエンドに至る選択肢をどんどん遡って行って最適解を得るストーリーでした。(その最適解がどのようなものかは観てみてください)ここで一つ、映画とゲームというメディア上の制約があります。映画は基本的に分岐しませんが、ゲームはいくらでも分岐するということです。映画は必ず真のエンディングにたどり着きますが、ゲームは必ずしもそうならないんですね。そしてこのゲームはというと、最適解を探すことがテーマです。納得できない結末なら、何度でもやり直すことができる。そしてそれは逆に、そのエンディングで納得できるのならやり直す必要はない、ということです。このゲームにはいくつかのエンディングが存在します。いわゆるマルチエンディング、というものですね。そしてそのエンディングの中には最適解もあるそうです。というのも、私はたぶん最もたどり着きやすいエンディングしか見ていません。なぜかというと、単にコンプリートしている時間がないというのが最も分かりやすい理由ですが、このエンディングでもいいじゃないか、と思ったからです。だからこの感想もそのエンディングを元に書いています。このエンディングが、私の「選択」なのです。(なんつって)

この「最適解を探す」というテーマを象徴しているのが、牧瀬クリスではないかと思うんですね。彼女の死は謎に包まれている。そして存在しないことになってしまったクリスが存在する可能性世界こそ、倫太郎にとって、そしてプレイヤーにとって最適解のはず。物理法則が導く冷酷で無常な世界という「こたえ」を一人の少女に担わせている、というのはとてもドラマチックです。そして倫太郎=プレイヤーはその少女が存在する世界をたった一人で探す。それは言ってみれば時間に隔てられた遠距離恋愛と言えるのかもしれません。*1お互いに心を通わせても、遠い。でもいつかきっと会えるはずだという儚い希望がとても切なかったですね。

そしてその最適解にたどり着くまで何度も何度も選択を繰り返す倫太郎は、どんどん心が摩耗していくんですね。この選択をすればきっとすべてが良くなると思っても、バタフライ効果で別の悪い結果を生み出してしまう。その均衡の中で彼はあがき続けます。時間を飛び越えるという特別な力を得たのに、普通の人である倫太郎は特別にはなれない。選んで失敗してまた選んで。その諦めない強さは素晴らしいと同時に、とてもやりきれないんですよね。自分には誰かを救える力があるはず、そう信じたい気持ちとは裏腹に彼は誰かを傷つけることでしか選べない。世界の均衡が代償なしには得られないことを要求するからで、そしてそれはある程度真実でもあるんですよね。ゲームの見た目からは想像もできないこのシビアな世界観は驚きました。そしてこの世界観が、普通の人である倫太郎をちょっと変わってるけど魅力的なヒーローに仕立てているんでしょう。

ゲームをしながら全然関係ないけど、この作品は映画じゃなくて演劇に向いてるなあと思いました。場面がアキバに限定されていたり、声優さん一人の演技力にかかる部分がとても大きいんですよね。特に主人公倫太郎を演じた声優さん(名前を知らなくてすいません)、バカで男気があってそれでいて我が強いあの役を、コメディからシリアスまで多彩な情緒を演じ分けたのはすごい。最後の方はけっこう感動しましたねー。倫太郎いいやつだよ。そしていまだにあの「フゥーハハハ!」が脳内でリフレインします…。

*1:対称的に空間的に隔てられた遠距離恋愛新海誠監督の「ほしのこえ」になるのでは