メタルギア ソリッド ピースウォーカー

ゲーム「Metal Gear Solid: Peace Walker」のノベライズです。先日発売したGROUND ZEROSの同梱版で読みました。文庫版と電子書籍版も発売されたようですね。


まずはこの作品、野島一人さんというこれまで作品を発表していないまったくの新人の方が書いたそうですが、いやいやすごいですよ。なんだろう、特別文章がうまいという印象ではないんだけど(こんな読みにくいブログしか書けない自分が言うなという話ですが)構成力がすごい。伏線の張り方、思弁の組み込み方がとてもスムーズでシナリオを邪魔せずにさりげなく提示されるんですよね。特に「想像」を、ミームジーン、センスと並列に並べて語るくだりがすごく良かった。ゲームはゲームのテーマがあるけど、この作品では「想像(イマジネーション)」が一つのテーマとなっているんですね。それがストーリーにうまく組み込まれていて素敵でした。うんうん、やっぱりノベライズはこういう「語り」が読みたいよね。


今回は新人の方の作品ということで思いっきり褒めるのもいいんだけど、気になったところを上げた方がもしかしていいのかな…。あまりネガティブなことを書くのは得意じゃないけどちょっと頑張ってみます。


まずは、処女作ということもあるんだろうけど全編がっちりと緊張感に溢れていて、もう少しほっとするシーンが読みたかったです。スネークさんは過去と向き合わなきゃいけないしそんな余裕はないのはよく分かるんだけど、ゲームではカズがわりとお笑い担当だったこともあってその辺にユーモアがもっとあればよかったな、というか私が単におバカなカズがすきなだけなんですけどね。チコとパスの可愛らしいシーンがそれを担っていたのかなとも思うんですが、なんだろう大人むけのギャグがあったら良かったなと思いますね。今はゲーム本編でもギャグ要素が少なくなってるけど前はもっと面白いシーンたくさんあったし、そういう部分を小説版の方で読みたいですね。

それと戦闘シーンや潜入シーンにもう少しリアルさが欲しかったです。リアルさというか、ゲームでも携行する武器を選ぶように、その場面場面で必要な武器をどう調達するかというエピソードが読みたいんですよね。ゲームでは私はあまり武器はよくわからないので適当に強そうなやつを選んでしまうんですが、分かっている人ならこの兵器にはあれだ、とかあると思うんですよ。そういうこだわりやうんちくは楽しいですね。それに潜入シーンのハラハラ感。あ悲劇にも喜劇にもどっちにも転がりそうな緊張感がこのシリーズの醍醐味だと思うんですよ。「現地調達」、「単独潜入」ですから!上手い人のプレイ動画を見ているような、タクティカルな描写がもっとあると嬉しいですね。

悪役があまり悪役という感じがなかったのも少し物足りなかったかな。ゲーム本編でも直接殴り合う(笑)人間の悪役は登場しないので、仕方ないかなという気もしますが。今作の敵は冷徹で感情のない機械なので人間側はもっと腹黒い、心を抉られるような醜いところが対比としてあったら引き締まったかなと思います。うーん、でもコールドマンもザドルノフもなんだかんだと言って私は憎めないけど(笑)



…こんな感じでしょうか。やっぱり悪いところを見つけるの難しいなー。では、良かったところを。
小説や映画などいろいろな作品への言及や実在の人物のエピソードが盛り込まれていたりと、原作のゲームにもあるような「お土産」がたくさんあるところがすごく良かったです。特にカウント・ゼロってギブスンの小説は知ってたけど、このエピソードは現実に言われていることなんでしょうかね(笑)
そしてなによりスネークさんが格好良かった!私は今までノベライズされた作品はすべて読んできたけどこの作品のスネークが一番好きですね。レイモンド・ベンソンさんのハリウッドばりのスネークも、伊藤計劃さんのちょっと変わり者っぽいスネークも、長谷敏司さんのぼこぼこにされるスネークも、すごく魅力的だけどこの野島一人さんの様々な葛藤を抱えながらも一人の男として全力を尽くすスネークがなんだか身近な感じがして良かったです。ていうかねゲーム本編でもびっくりしたけどこの作品のスネークさん、39歳なんだよ。渋すぎるでしょー。
ザ・ボスという死者を利用する生者から彼女の尊厳を守る、というのが今作のスネークの役割でした。その立ち位置はどこか騎士のように思えたんですよね。死者の帝国を守る騎士であり、そして同時にその侵入を阻む番人でもある。そして騎士のような従順さや禁欲的な態度がスネークのザ・ボスへの愛情の表現のような気がしてロマンチックだなあと思いましたね。そう、ゲームでは読み取れなかったけどここには一人の女を愛する男がいる、っていうのをすごく感じました。そういうのも含めてやっぱりスネークさん、素敵だなって思いましたね。報われない、応えのない恋愛感情を持つ男性がすきなんですよね。ダニエル・クレイグ版の007とかね。



私は著者やクリエイターのことを意識して読む方ではないので、あとがきにある小島監督のように読んでいる途中で伊藤計劃さんのことはまったく思わなかったですね。序章を読むとすごく意識されていたみたいですが(まあ、当たり前ですよね)、それ以降は完全に野島さんの語りの世界に引き込まれました。最初は地の文が少なくてライトな感じなのかと思っていたら、全然そんなことなかったですね。文章の量は多いけど、そうは感じさせない展開や構成が本当に素晴らしい。そしてなによりもこの人、メタルギア大すきだなと思えることが読んでいて楽しかったです。私も大すきだよ!こんなすごい作家のデビュー作に立ち会えるなんてほんと幸運でした。小島監督の審美眼もすごいよ。


次回作も期待しています。あ、もしかして雷電登場かな?楽しみだ!