天冥の標8 ジャイアント・アーク Part 1


2014/6/29追記
以下の文章は、「天冥の標」シリーズを未読の方の楽しみを大きく損なう可能性があります。ネタバレと書いていますがこのシリーズを読む予定の方は既刊をすべて読了した後にお読みください。





困ったな。この「天冥の標」は表題に8とあるとおり、シリーズ物の最新刊です。さらに8のPart1なので当然このあとも続きます。そんな続き途中の物語の感想をネタバレなしで書くのは難しいわけで、でもねーこれ、本当に面白いんだよ。


なにが面白いんだろう、なんで買って来たその日のうちに読み切ってしまうくらい(普段読むのが遅い方なので例外的なのです)夢中になっているんだろう、と思うところを書き出してみます。

SFとしてはそんなに難しい方ではないです。もちろん私はSFとして読んでいますが(異星人の生態系とか、一見ファンタジー調の世界の基底に練り込まれた設定とか楽しすぎる)、SFではなく架空の人類史、それも千年規模で展開するそれをあたかもその場に居るように目撃する楽しみがあると思うんですよね。例えば、精巧にできた架空の世界のミニチュアを眺めるような。少年少女が未開の地にたどり着いて、文化を守りながら生き抜いて、それが家族になって集落になって、その間にいろいろな習慣が生まれて、国家になって。一つ一つが既によく出来ているものが、アセンブルされていく過程、そしてその組み合わせたものが新しい視点や想像を生み出して行くんですね。
これは確かに一つの物語なんだけど、それは既に提示された細かな小さな物語に分解可能であり、そして今それが組み上がりつつあります。未だにその全貌を見せないまま。
別の見方をすれば、物語のリファレンスだけが先に提示されているということでもあります。その本来の物語にたどり着いた時、もう一度その参照先を読み返さずにいられません。そして初めに読んだ時と、真相を知った上で読んだ時とでまったく違う意味がそこにあるんですよね。この衝撃。新作を読む度に遡って読み返したくなる。ものの見方を、世界の見方を劇的に変えることは物語の醍醐味の一つですが、こういう面白さがこのシリーズにはあるんですよね。
そしてこの構造がそのままなら、今作でもそのリファレンスが提示されているはずです。どこなのかは全く分かりませんけど。



以下ネタバレ
(今作はかなりがっつりネタバレなのでシリーズ未読の方はご注意)







とりあえず。カドム生きてたー!あー!死んだかと思ってたけど生きてて良かったーーー!今作は1のメニー・メニー・シープで起きた革命事件をイサリの視点から追っていたので、最後のあのシーンがもう頭から離れなくて、嫌だなあ!と思いながら読んでいたら裏切られました。いい意味で。いやー、6の宿怨の時からセアキ一族はイサリを全力で救って頂きたいと思っていたけど、逆だわ。すいません救ってください、一族だけでなく人類も(笑)
もー今作は、人類ののどかさ(はやく気づけコノヤローと何度思ったか…)にやきもきして大変でしたがやっぱりイサリがね。もうなんていうか冒頭から酷い目に遭わされて読むの辛かったわ。姿は1と変わっていないけど、主観があるからやっぱり女の子の姿を想像してしまうんですよね。それが一層可哀想で。それなのに健気に頑張るし、カドムのシーンはもう何度涙目になったことか。うう切ないよ…。でもちょっと長女気質というかスカイシー3で迷って遭難しかけたあたりのイサリの性格が外形の変化があってもそのまま残ってるようなところもあって、そういうこところはほっこりしましたね。
それに今作は、1のおさらいだけでなく真相に近い人々(?)の葛藤や思惑が描かれていて、シリーズ全体としても重要なエピソードがぎっしり詰まっていました。まあ改めて見返すと重要じゃない物語はないけど(笑)人類がようやく入り口にたどり着いたところで、恋人たちはなにか次の展開に進んでいるし(まさか彼がキリアンだったとは…)、カルミアンはようやく並列化して本気モード入ったし、救世群は一斉攻撃仕掛けてくるし、まあそんな中でダダーだけが相変わらずのほほんとしてて逆に異様でしたね。そうか、1を読んでた頃になんとなく感じていた不穏な空気の正体はこれだったんだなあ。
しかしこれだけ超越した存在たちですら苦戦する敵に人類は勝てるのだろうか。勝算は提示されているんだろうけど。うーん、勝負はどうあれ存続できる、といいな。がんばれ人類。