機械たちの時間

機械たちの時間

機械たちの時間


人間が認識する時間の流れと、機械が認識するそれは逆なのではないか?という仮説をベースに殺人事件が起きたり、マクガフィンを探索したりとミステリーっぽい雰囲気のSFでした。どうでもいいけどマクガフィンで言葉初めて使ったよ。物語の中心にある目的のもの、って感じの意味合いですね。この作家さんの作品の面白いところは、どれが本当の現実なのかということに迷わないこと。もう主人公が話している側から現実、世界の方が揺らぎ始めて本人も意識の断絶こそないけど、「この世界ではどの自分なのか?そもそも自分は存在しているのか?」と確認しながら進めていきます。その思い切りの良さがすごくかっこいい。

この世界を規準にすれば、まちがいなくおれは狂っている。だがそれを決めるのは世界じゃない。表か裏か。どっちが表でもいいのだ。両方表にはなれない。正しいのはそれだけだ。どっちが表かを決めるのはおれだ。
神林長平 著『機械たちの時間』

といいつつもやっぱり世界の方が大きいわけで、表と裏の決定権の争奪戦がとてもスリリングなんですよね。
そしてこの仮説のストーリーへの組み込み方が秀逸。主人公は脳内に機械を埋め込んだ、半ばサイボーグのような存在です。機械の意識、というとちょっと語弊があるけど演算の意図を読み取ることができます。つまり目の前の機械の仕様や稼働中の動作をスキャンできるということ。一方、生体の脳も残っているので半人半機械なんですね。その脳が意識するのは人の時間か機械の時間か。彼の意識を読書で追体験することによって、機械が見ている世界がかいま見える。それはあくまで架空のSFの世界のお話なんだけど、それがすごく格好良くて面白んですよね。