トランセンデンス


あらすじ
科学者のウィル・キャスター(ジョニー・デップ)は量子コンピュータを用いた人工知能PINNを開発、PINNは人間と同等かそれ以上の知能を持ち、この巨大な頭脳はいずれ貧困や治療困難な病気など世界的な問題を解決するものと看做されている。しかし意思を持つPINNの存在を危険視するテロ集団の凶弾がウィルの命を奪ってしまう。妻であり共に科学者であるエヴリンは密かにPINNにウィルの意識をアップロードして延命を図ろうと画策する。


SFの小説の方ではいわゆるアップロードものというのはずいぶん前(80年代のサイバーパンクの頃かな?)に盛り上がって今でも描かれているジャンルの1つです。最近読んだやつだと「アッチェレランド」かな。人工衛星にロブスターがアップロードされるってやつ。そして機械は意思(ゴースト)を持つか、というのも以前からSFの題材に選ばれているものですね。言わずもがなの「攻殻機動隊」など。さらにさらに人工知能は人類の友となるかそれとも敵対するか、なんていうのも「BEATLESS」で一つの回答をみたテーマでもあります。そもそも遡れば「戦闘妖精・雪風」から続いているテーマでもありますね。
まあ読書自慢はこの辺で(笑)、この映画をSFとして観たときにあまり目新しいものは感じませんでした。あ、あと一つだけ。機械の意識が世界中にネットワークとして広がり、意思が遍在するというテーマは「ユービック」ですでに描かれていますね。


でもねーやっぱり自分の貧相な想像よりもバーンとでかいスクリーンに詳細に描かれる風景ってやっぱりいいなあって思います。この作品ではアップロードの過程をとても細かく描いています。なんか掃除機みたいな機械でグーンと吸い取られてハイ終わりじゃなく、人間の意識をデジタルに置き換える(インストール先が量子コンピュータなのでスナップショットというよりは状態を転写している感じかな)、本来相容れないものを融合させていくところが良かったですね。それとネットワークがシャットダウンする風景が描かれたこと。インフラが失われた世界の風景がそこにあるんですよね。ほんとこんな風景はフィクションでしか観られないよ。
この映画を観ていて思うのはけっこう真っ直ぐに創り手の考える「世界」というものが奇をてらうことなく率直に描かれているということです。ちょっと描き切れていないところもあるけど(世界中でこの現象が広がっているとは想像しにくい)、テクノロジーというレンズを通してみた世界が、神という隠喩を交えて宗教に偏るでもなく科学に徹するでもなく個人の視点として語られた作品だと思いました。



偉大な業績の影には個人的な理由がある。
という話でした。こういう話すきなんですよね。SFとしてはあまり面白みは少なかったけど、恋愛ものとしてはけっこう良かったなと思います。人間はぜったい、その領域を超えて行くと思うよ。だって悲しいことは嫌だもの。寂しいことは辛いものね。そういう個人的な感情がすべての中心に常にあって、こういうストーリーの導き方は良かったですね。


劇中、一人のくたびれた風情の工事作業員が出て来て「あーこの人どっかでみたことある…どこだっけ?」って思ってすごく気になってたんですが、パシリムのテンドー役の人でした。吹き替えじゃないから分からなかったよ(笑)