ムーンライト

アカデミー賞を「本当に」受賞した方の作品です。なかなかに辛い人生を送ってきた男性の機微を、子供時代、青年時代、現在を切り分けて描いています。
人生っていうものを物語だとすると、ある程度は数種類のパターンに集約されると思うんですよ。まあ波乱万丈な人もいるんだろうけど、平々凡々と暮らしている人の大半は、どれかに分類できてしまう。そのパターンには集約できない部分もたくさんあるし、それが個性と言われるものだとは思うんですけどね。
物語を変えることはとても難しくて、自分を変えたところで周囲や環境に流されてしまうことなんてたくさんあって、「自分でこの道を選んだんだ!」って思える瞬間はとても少なくて。私の人生はパターンになんか当てはまらない、なんてことはそうそう言えない。
でもそこに何を残すかを決めることくらいはできる、というのがこの映画の希望だと思うんですよ。レールの上に乗っかって家と仕事場を行ったり来たりする人生でも、恋をしたり喧嘩をしたり、誰かのちょっとした親切をずっと心の支えにしていたり。
物語から逃げられないたくさんの人たち、その役割を強いられる人たちが持っている、物語の外側にあるとても私的で無垢な部分をそっとすくい上げる。そんな映画でした。良かった。