「ブロークバック マウンテン」



来月、アン・リー監督の「ラスト、コーション」がレンタル開始になるそうなので予習ということで。
それにあれ以来ヒース・レジャーさんがとても気になってたってのもある。


同性同士の恋愛物語となると、どうしても不道徳さとか秘密が過剰に演出されて、
行き過ぎた耽美さが出てしまうのってありがちな気がするんですが(むしろその耽美を楽しむのがBLなんだろうな)、
これはかなり淡々と描かれててそこが良かったです。
一方で秘密がバレそうになる危険さや、秘密を守って行かなきゃダメだっていう閉鎖的な状況の描き方も
無理がなくて興ざめせずに観る事が出来ました。


二人とも、特にイニスは家庭をとても大事にしてるんですね。
恋人との逢瀬に喜びを隠しきれない描写が多かったけど、きっとこの人はごく普通の父であり、夫だったんだろうなあと思います。
ジャックの方も、婿養子の窮屈さを味わいながらもちゃんと家庭を取り仕切ろうとするし、
最初に彼らは互いにゲイではないとはっきり明言している事から、
これは普通の恋愛ものではないなあ、と観てる途中思ってました。
かと言って、彼らが裏表のある人生を歩んでいるようにも何故か見えなかったですね。
それって、彼らの恋愛が他者に証明する必要がないからなのかな。
お互いにさえも、「愛してる」とは一言も言わなかったような気がする。(ちょっと曖昧ですが)
ただ、ともすれば暴力的なセックスや感情のたがが外れたようにキスをすることで、
身体のレベルでお互いに証明してるんだろうなあと思いました。
そういう意味ではこれは普遍的な恋愛ではあるんですが、
互いに「彼」でなければダメで、男でも女でもダメだというのが興味深かったです。
一見普通の人生のどこにそういう「恋愛」が入り込めるのか、
彼らの中でどんな風に位置づけられてるのかそれは最後まで分かりませんでしたね。
(かなり上位だと思うけど)
具体的なラブシーンもあったけど、逆に二人が思いあまって殴り合うとか、ふざけて犬のようにじゃれあうとか、
感極まって泣くシーン(お互いにそういうシーンがあった)に、
強い気持ちを感じましたね。
特にラストシーンのイニスがジャックのシャツを抱きしめるシーンに、
とても強い愛情を感じました。ここが一番泣けた。


役者はなんといっても、イニスを演じたヒース・レジャーさんがすごく良かったです。
ちょっとシャイで無口な役を、表情や所作で感情豊かに演じていました。
不器用で口数が少なく、それでいて「男の仕事」を優先させる昔の男性像が説得力があって見事でしたね。
それでいて恋人には柔らかな眼差しや微笑みを向けたりする柔軟さ、そういうモードへ移行が
とても自然ですごかったです。
自然と言えば、風景がとても素晴らしくてこれだけでかなり見ごたえがありました。
どこまでも続く山並みや、高く広い空に真っ白な雲、砂埃が舞う長い長い道路や、
湖畔の静けさや朝の空気の冷たい感じとか、物語を忘れて思わず見とれてしまう程素晴らしい映像でした。






これに近い映画でウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」という映画があるのですが、
こっちはそういう耽美を一切排した、切ない恋愛ものでこっちも良かったです。
純粋に人を好きになるという路線ではないけど、
奔放な恋人に振り回される切ない役どころをトニー・レオンさんが演じてました。
そういえばこれ、映画館で観て冒頭の濃厚なラブシーンで度肝を抜かれた覚えがあるな(笑)
ブエノスアイレス [DVD]

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