「007/カジノ・ロワイヤル」

007/カジノ・ロワイヤル 【新版】 (創元推理文庫)

007/カジノ・ロワイヤル 【新版】 (創元推理文庫)



先日007最新作を観に行ったら、キャストが「イアン・フレミングジェームズ・ボンド」とわざわざ表記しててたので、気になって読んでみました。


私自身海外の翻訳ものを読むせいもあるかもですが、意外と読みやすかったです。海外と国内では、お話の盛り上がりとか展開の仕方や注視する箇所がけっこう違ったりするんですが、そういうモヤモヤした感じはあまりなくて割とすんなりと入り込めました。


お話の方は、今から40年も前の時代、スパイが暗躍していた頃のお話なんですが、ボンドがとても自分に正直というか、男の欲望を隠そうともしない描写に妙に感動してしまいました。一応英国紳士なので表向きは礼儀正しくしてるし、スパイらしく心にもない事を言ったり演じたりはしてるんだけど、女と寝たいなあとか、こいつ腹立つなあとか、女の面倒見るの嫌だなあとか、赤裸々に綴られててとても面白かったです。映画だとこういう内面の描写は役者さんの演技と台詞から推測するよりないし、こうやって読めるっていうのはとても興味深かったですね。時代が時代なだけに、女性への蔑視ともとれるような表現もあったりするんですが、むしろ男性の本音が抑圧されているような現代ではとても新鮮に感じました。そしてその相手をする女性もなかなか強かなんですよね。特に印象に残ったのが、ボンドが同僚の女性スパイ ヴェスパーと優雅な一時を過ごした時の会話で、彼女は仕事でボンドの世話役を担当していて、その完璧な仕事ぶりにボンドが感動するんですね。

「君には参ったよ。なんだか、こっちは金のかかるひも(ジゴロ)になったような気にさせられる」
「だってわたしはあなたの世話をするようにいわれているのよ。命令されたことをやってるだけだわ」
「ねえ、この風呂は本当にちょうどいいぜ。わたしの女房にならないか?」
「あなたに必要なのは奴隷で、奥さんじゃないわ」
「君が必要なんだよ」
「それよりわたしにはロブスターとシャンペンが必要よ。だから、早くして」
「わかった。わかったよ」


007/カジノ・ロワイヤル

一見ボンドが巧みに下手に出て懐柔しようとするんですが、ヴェスパーはその策略を柔らかい物腰でかわすというこのシーンには、華麗なアクションを観るような爽快感がありました。どうせ主導権争いをするならこんな風に粋にやりたい。この時代の恋愛って今よりもっと「戦い」って感じだったんだろうなあと思いました。


「カジノ」というタイトルにもあるとおり、ギャンブルが物語の中でキーワードになっていて、あまりギャンブルは詳しくなかったのですが、簡単な説明がされていたので置いてけぼりにならずに楽しめました。こういう物語の中で描かれる「運」には静かながらアクションとは違う緊迫感があってすごくわくわくしましたね。それもバカラという巨額の金が動くゲームを描いていて、その勝者と敗者の明暗の差がよりいっそう緊迫感を盛り上げていて面白かったです。それにしてもこれに賭ける心臓ってすごいわ。


スパイものと言えば何故か拷問シーンが付きものなんですが、この拷問はひどいな(笑)まあ、男性にとってこれほどの責め苦はないんじゃないかな、と普通に思いました。