「天使と悪魔」



物語を楽しみたいなら、なにも映画じゃなくてもいい。むしろ小説の方が、人物の感情とか見えない部分の描写ができるし、画ではできない注釈のような脱線もできるのだから。特に、背景に膨大な設定を持っている物語は、そういう表現形式の方がいいのかもしれない。物語が映画という表現形式で語られる時、文字情報のような詳細ではなく動く画として表現される時、その物語が何を語っているかを一瞬で画として見せる事が必要だ。私は先に小説を読んでいたのでどういう物語かは知っていたけど、宇宙の創世の風景と天使あるいは悪魔の降臨が画面に現れた時、そういう映画の表現形式のことを思った。物語の上でも「演出」という意味もあって多少大袈裟だったけれど、物語の本質がたったワンシーンで表現されていることに驚いた。科学と宗教が矛盾せずにそこにある風景。このシーンを観れて本当に良かった。



小説と映画の違いについて。
小説は文庫本で3冊分のなかなかのボリュームなんで、それを映画の方では上手く端折ってました。教授とヴィトーリアのロマンスが全くフォローされてないし、オリビッティのエピソードもだいぶ削られてるけど、それでもミステリー部分に焦点を当てたのは正解だと思います。小説の方でも時間がない焦燥感はあったけど、それを増幅させて画的な面白さに結びつけているのは良かったですね。ヨーロッパの古い街並を車が激しい勢いで疾走する、というのはそれだけでなんであんなにかっこいいのか。オリビッティの役が大幅に変更されていたようでちょっと残念だったけど、役者さんがなかなか素敵な方だったので良かったです。スイス警備の人たちは、全員スーツが似合っていてとても素敵でした。カレルメンゴのエピソードが一つ描かれていなくて、これが物語では彼の最後の決断に重大な影響を与えていたはずなんですが、ここは少し残念でした。技術的な考証にちょっと無理があったのかな。このエピソードだけでも彼のラストシーンの意味合いがだいぶ変わってくるはずなんですが。