「アバター」



予告編を観てからずっと、今年中に観ておきたい映画でした。3D酔いしやすいので念のため通常版で。観終わった後、やっぱり3Dでもう一回観たくなりました!


*** かるくネタバレしているのでご注意下さい。***






善と悪がはっきりしていて、すごく分かりやすい映画でした。これまでいろいろと侵略されて来た(笑)地球人が今度はエイリアンになって、パンドラという美しい星を侵略する。目的もはっきりと金のためで、物語はそこから余計な道徳や倫理の話にいっさい向かわず、どこまでも欲にまみれた地球人をこれでもかというくらい陰鬱に、そして醜く描きます。一方侵略される側のパンドラの住人ナヴィは、(人類から見たら)文化度の低い、原始的な暮らしをしているけど(部族間の闘争はあれ)そこそこ平和で豊かに暮らしています。その美しさと言ったら、もう言葉にすることができない。映画を観ることの最大の楽しみは、この言葉に出来ない光景に出会うことですが、何度鳥肌が立ったか分かりません。人間のイマジネーションの力というやつは本当に限りがないなあ、と観ながらため息が出てしまいました。これを文章で表現出来る作家さんは居るでしょう。予告編でこの美しい異世界を目にした時に、私はSF作家のJ・ティプトリー・ジュニアの「輝くもの天より墜ち」という小説の中に登場する惑星を思い出しました。想像を絶する美しい惑星の表現が巧みな、とても面白い小説なんですが、この映画を作り上げたイマジネーションなら、この小説の映像化は不可能なことじゃないんじゃないかなと思いますね。
一つだけ、物語にはあまり関係ないシーンですが、冒頭で下半身不随の主人公が初めてアバターと呼ばれる人類とナヴィとのハイブリッド*1とリンクした時、自力で立ち上がって走ることができるという嬉しい気持ちを表現するシークエンスがあるんですが、これがとても素晴らしかったです。身体から溢れる止めようもない嬉しさ、大地にしっかりと足が触れている感触の確かさ、そういう身体感覚の丁寧な表現が手に取るように伝わって来て本当にすごいと思いました。いやもうこれは私がどんなに言葉をひねりだそうと伝えられるもんじゃないです。映像だけでこんなにもぞくぞくするんですから。


この映画をちょっと古くなってしまった物質的、精神的な豊かさの対比と見るのは、まあ悪くないと思います。ただそう見てしまうには、何かストレートすぎるような気もするのです。アメリカの第三国に対する姿勢への批判とか、そういう見方でもいいんでしょう。実際、そう思わせるようなシーンもありました。他文化に干渉することの危険性に関心を払うことが出来ず、古典的な英雄きどりに収まってしまう業のような愚かさを、徹底して描いているようにも思えました。でも、なんとなくそうでもない気がします。それって「今さら」なんですよね。今さら言われなくても(多分)みんな分かってることを、なぜ物語の主軸に持って来たのだろうか。それは、どんなに美しく豊かな人種であっても、武力の行使という土俵に結果的には引きずり込まれるという醜さではないでしょうか。ナヴィの人たちは美しい森の中に住み、一種の生命体である星と一体となって、高潔な伝統を守り続けて来た、理想的な人たちです。でもそういう高潔さも豊かさも否応なく、醜く汚れた欲に引きずり込まれ、戦わざるを得なくなる。物語の中盤で、彼らの象徴が破壊される印象的なシーンがあります。恐らくここで彼らの高潔さは一度失われているのではないかと思います。その後に続く戦いは、守るための戦いであり、多分弔いの戦いなんじゃないかな。武力の行使はどんな理由であれ、破壊と悲劇しかもたらしません。これも誰が言わなくても分かっていることを、この映画では力一杯描ききります。その醜さをこそ、観客の網膜に焼き付けてやろうとでも言うかのように。他の部族を鼓舞して、奮起させる主人公のしていることが結局は「武力には武力で」という地球人側の醜さの反復なんだと気づくと、この最後のシークエンスは恐ろしい皮肉になっていて、そこに無力感のようなものが漂っているようにも思えました。そして最後に傷ついた文化の再生の願いを込めて、「再生」を描いたんじゃないかな。


今回映画でシガニー・ウィーバーさんが観れたのがすごく嬉しかった。今回の役どころはそれほどタフなものではなかったけど(若き日の彼女が演じたかもしれない役の女性がカッコ良かった)彼女が画面に出て来るだけでなんだかテンション上がりましたね。あと、パワードスーツのデザインがすごく良かった。あの無骨なガインガインっていう感じだいすきだ。全体的にバカでかい車両とか、隊列組んで飛行するガンシップとか、そんなに軍事もの好きじゃないんだけど、お腹の底に響く感じがたまらなくわくわくして面白かったです。

*1:そう言えば主演のサム・ワーシントンさんはT4でもハイブリッドだったね