「マイレージ、マイライフ」

「着地点の見えない空中に漂う人々」

軽くネタバレしてます。









原題は「up in the air」。こちらの方がこの映画の本質をダイレクトに伝えるタイトルだと思います。年間300日以上を出張するエリートサラリーマン、ライアン(ジョージ・クルーニー)の密かな野望を打ち砕こうとする若いキャリア志望の女の子ナタリー、ライアンと「同種」のキャリアウーマン、アレックス、この3人が織りなす物語。


これ、常に空中を漂うライアンが「up in the air」から「down to the ground」と着地するのではなく、そのまま空中に放り出される映画だと思うんですよね。序盤から中盤までのライアンとアレックスとの関係は、これまでの映画の展開なら着地するはず。主演がリチャード・ギア(プリティウーマンの人と言えば分かるだろうか)なら間違いなく(笑)でもそうならないんですね。地に足着いた人々を空中に放り出すことを仕事としているライアンが、実は彼自身も同じく空中に放り出されているに過ぎないという結末で終わるのです。この映画は最後まで彼の着地を許さない。だからラストシーンでは、彼は膨大な数の目的地が表示される搭乗口で立ちすくんでしまう。そこで彼はそれまで彼が出会って来た人々と同じく不安な浮遊感の中に取り残されています。そこに至る過程で彼は着地点も到達点もすべて失っている。彼の言葉によって職を失い(ある意味において)自由に行き先を選ぶことができる人々の不安と、着地点を見失った彼の虚無感が同じ浮遊「in the air」というキーワードで描かれているように思いました。あ、ちなみにこの単語には、「castles」を付けて「空中楼閣、幻想」と言った意味があるそうです。そういう意味では、彼の着地点のない空の上の人生は幻想のように儚い、ともとれるし、この空の上の人生と地上の人生との間を彷徨うというモチーフは、映画「スカイ・クロラ」にも通じるものがあるんじゃないかなと思います。


そしてこの主人公を演じたジョージ・クルーニーがまたすごく良いんですよ。この主人公のライアンは、経験を積んだ交渉役でもあるので言葉に説得力を持たせる演技が重要なのですが、それがとても良かったですね。特に顔がいい。全編ちょっとにやけた顔が多かった気がするんですが(それも素敵だけど)、顔の表情だけで納得させるというのはすごいなと思いましたね。それとさり気なく女性をエスコートする仕草なんかがとても洗練されていて、どっぷり魅了されました。素敵。あとナタリーを演じた女優さん、どっかで観たなあと思っていたらトワイライトのベラの友だち(おしゃべりな子)でしたね。顔をぐっちゃぐちゃにして泣きわめくシーンがとても可愛かったです。