「第9地区」



「(エビ)もうやだ帰りたい」


エイリアン、宇宙人と聞いて何を想像するでしょうか。おなじみのタコ?それとも、ホンモノっぽいグレイ?映画ファンならET?架空の生物の中でもこれほど人々の想像の中に長く生息し、誰でもそれなりのイメージを持っている、そんなキャラクターは恐らくこのエイリアンくらいなもんでしょう。だからこそ、映像表現はその直接の描写をこれまで避けて来たように思います。なんでって、誰でもイメージできるものを実写にすると陳腐になるから。UFOや超常現象を扱った海外ドラマ「X−ファイル」ではその辺をよくわきまえていて、全編を通してエイリアンの存在をつかみどころのない影のようにしか見せません。触れて(見て)はいけないものという位置に常に置くことで、イメージを具体化するのではなく抽象化して存在感を出しているのだと思います。イメージを実写にすることの危うさをよく知っていました。また、古いけど映画「ET」では、(当時は)誰も思いつかない意外な描写を出すことでその危うさを回避して来ました。


ところがこの映画ときたら、そんな心得など微塵も感じられない恥知らずもいいところ(笑)エイリアンのビジュアルイメージに選んだのは、グレイでもタコでもなくエビ。謝れ!クリス・カーター*1に謝れ!(笑)しかもこのエビ、観ているうちになんだかトランスフォーマーのロボ顔に観えてくるんですよね。お前はバンブルビーか。このエビ(もはやエイリアンとは呼びたくない)は人間の注目を避けるような恥じらいも奥ゆかしさもなく、白昼堂々となんのボカしもなく画面に登場するのです。ファーストコンタクトの醍醐味まるでない(笑)そしてエビが人々と交流する様子は、映画「MIB」のようなコメディ要素もなく、単なるやっかいごとでしかないんですよね。もうここまで来るとこれまでの「異星人と心温まるファンタジー」とか「意思疎通が不可能な凶悪な異星人VS人類」とか「エイリアンの陰謀と見せかけて実は政府の陰謀」とかのデカい話ではなくて、「隣に引っ越して来た面倒くさいちょっと変わった隣人」のレベルにまで引き下がってるんですよね。いやいや、下がってどうするんだよ、上がれよ(笑)
でもまあ、ファーストコンタクトが荘厳である必要もないし、宇宙人と必ずしも友好関係にならなければならないという訳でもないし、そういう部分ではうまい所を突いてる映画だと思います。アンチファーストコンタクトものというか。このようにツッコミを入れながら観てもいいし、ちょっと安易かなとは思うけどエビのドラマに感情移入してもいいと思います。クリストファー(エビの一人)とその息子はとても良かった。


というか、むしろこの映画の本当に面白いところはアクションシーンにあるのではないかと思います。(ここまで書いて来てあれだけど。)ヘリからのスナイピングとか、パワードスーツで傭兵部隊殲滅とかいい意味で無駄に力が入っている感じが頭空っぽにして楽しめました。

*1:X−ファイルの監督