「シャッターアイランド」



「ささやかな個人の物語の抵抗」


公開からすっかり出遅れてしまいましたが観て来ました。公開前からかなり厳しくプロモーションを規制していたようで、ネタバレ厳禁のミステリーだと思っていたんですが、ちょっと拍子抜けしてしまいました。まあ、ちゃんと観れてるかと言われれば自信はないんですが。うーん、まだ騙されてるのか、それともああいう話だったのか未だによく分かりません。誰か教えてください(笑)


肝心のミステリーはさておき(さておけない人もいるでしょうが)、私はこういう話はけっこう好きですね。私たちが「現実」と見なしているものは、結局個人が勝手に描いている物語に過ぎない。その現実がもっと大きな外側のお話に駆逐されてしまう時、どうすればいいのでしょうか。例えば、この映画には多くの精神病の患者さんが登場しますが、彼ら彼女らは自分が間違っているとは思っていない。薄々自分はどこかで人と違うのだと認識している人もいるけれど、自分自身の「お話」を信じているんですね。それ自体は別に問題がない。問題なのは私たちを取り巻いている外側の文脈、「常識」とか「普通」といった言葉でくくられる物語に適応できないこと。そして適応できないものは淘汰されていくのです。
実はこのテーマは去年公開した「チェンジリング」にも通じるところがあると思うんですよね。自分が信じている現実が、強い他者によって曲げられてしまう。そしてそこに直面した人々ができるのは、自分の物語を信じることだけなのです。何事もなければのんきに信じられる現実の、その根拠のなさ、底知れない不確かさの上にその自信が成り立っているということに本当に驚きます。だからこの映画のラストシーンで主人公が下した決断に、私は悲しくも大きな勇気を感じました。