「月に囚われた男」



「劣化という個性」


前の投稿で「映画は金をかけないとリアリティがなくてつまらない」なんてことを書きましたが、間違ってました。ごめんなさい。リアリティを生み出すのは何も金をかけたセットや小道具じゃない。映画という嘘にどれだけ観客を引き込むかの工夫やアイデアです。(と言いつつも「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂」のゴージャスさはやっぱり大好きなのですが)例えばこの映画は月の世界を舞台に選びました。これ、とてもいいアイデアだと思うんですね。月の世界、宇宙ってやっぱりまだまだ想像の余地のある所なんですよ。月面を歩くシーン一つとっても、それにリアリティがあるかどうかなんて、地球を出たことのない普通の人々にはやっぱり分からない。そりゃあドキュメンタリーなんかで映像では観たことありますよ。でも、あの有名な人類最初の月面着陸が実はハリウッドで撮影されていたものだったなんていう陰謀論があるくらい、私たちは宇宙のリアルさを知らないんですよね。そういう部分にこそ嘘を付く余地があるんじゃないかと思いました。それに月面基地の映像を思い切って模型にしたのもいいんですよね。確かにそのシーンはリアリティを失って(よく出来ているとは思うけど)チープな感じにはなってしまうのだけれど、逆にそのチープな模型のショットが、子どもの頃に空想した「うちゅうきち」のノスタルジックな雰囲気とオーバーラップしてとても素敵なんですよ。はっきりと嘘だと分かってしまうところをあえて隠さない大胆さと、嘘をどうやってカバーするか。そのアイデアさえ活きていればこんなに面白い映画が出来るんだなあと感心しました。
物語の方はネタバレすると面白くないのであまり詳しくは書きませんが、きちんとSFしていながら人情的なオチがあるイイ話でした。こういう物語好きだなあ。キャラクターの中ではロボットのガーディがとても魅力的でしたね。彼はアンドロイドとは程遠い、いかにも業務的な外観で感情を表現する手段が携帯の絵文字のような少ないパターンしかないんですよ。話すことはできるけど気持ちを込めることもできない。でもだからこそ、定義された喜怒哀楽からこぼれ落ちるものが伝わって来るような気がしました。