わたしを離さないで

カズオ・イシグロさん原作小説の映画です。小説の方を先に読んでから観ました。
!!! ちょっとネタバレあります !!!





多くの子ども達が集まり暮らす施設ヘイルシャムでキャシーは、親友のルースと幼なじみのトミーと共に、時に喧嘩をし、友情を暖めながら成長した。成人して介護者となったキャシーは過去を振り返り、ルースやトミーと再会する。

映画の方は、小説に比べてあの奇妙な現実感のなさという感じは少なく、3人の人物の幼少から最後に至るまでの恋愛感情を軸にした展開で、あの特殊な設定がなければ普通の切ない恋愛ものとして観られるような感じでした。特に私は親友のルースの方に共感してしまうのですが、彼女の欲張りな気持ちとか、嫉妬とかなんだか見ていて切なかったですね。彼女はキャシーよりほんの少し物事に対して積極的なだけなんだろうなと思います。小説の方では情景描写がとても巧みでなんとなくシーンごとにイメージが先にあったのですが、すごく合ってましたね。まあ私の貧相なイメージよりももっと素敵で当たり前ですが(笑)特にヘイルシャムの校庭や、キャシーとトミーが二人で池のほとりを散歩するシーンが良かったですね。

運命を切り開け、という言説は勇ましいし解りやすいけれど、みんながみんなそうできるわけではないですよね。そしてそうやって戦い続けることが果たして幸福なのかと言うとなんとも言い切れない。多くの人は過酷な運命をも受け入れて日々を生きている。そうすることが果たして幸福なのかどうかは分からないけど、少なくとも切り開くだけが運命ではないという視点で見ることが出来たのは良かったです。
それと私は、世界というものは情報で出来ていてそれにアクセスできないことはない、という考え方をしているので(まあちょっと極端ですが)、こういう神とか奇跡とかそういう遠い話じゃなく身近な自分の身に降り掛かってる事柄、手の届くところにある事実すら知り得ない、ということにものすごい不安を感じましたね。でもそういう事もあり得ないわけじゃない。この設定は極端ではあるけれど、神と人の子という関係を、そのままマダムとヘイルシャムの子ども達という関係性に転写して、そういう人の力ではどうにもならない運命を描いているようにも思えました。だから終盤でキャシーとトミーがマダムを訪れて愛を証明しようとするのは、まさに教会で結婚を誓うことそのものなのでしょう。ロマンスというには寂しすぎるけど、切なくて好きなシーンでした。