ブラックスワン

幼い頃から母とともにバレエに打ち込んで来たニナは、所属するバレエ団の新作「白鳥の湖」の主役に抜擢される。清楚で可憐な白鳥と、妖艶で肉欲的な黒鳥を同時に演じることとなったニナは、やがてその役の両極に引き裂かれて行く。

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この映画の第一印象は「息苦しい」でした。ニナの追いつめられて行く表情も、白と黒が病的にきっちりと配置された画面の構成も、ニナと母親の関係から浮かび上がってくる母娘の激しい愛憎も、充分にそれを表現していると思いますが息苦しさの理由ではないような気がしました。この物語は、バレエの古典「白鳥の湖」を題材に人間の内面に潜む二面性を表現している、と書くとたぶん間違ってないと思います。が、この「内面の二面性」というものをこの映画は、バレエの舞台ではなく役者の肌の上で表現したのではないかと思うんですね。冒頭からニナの肌にある変化が現れているのですが、これは抑圧されたもう一人の自分の象徴であり、やがてこの肌は黒鳥へと変化して行きます。映画はニナが見ている歪んだ現実と客観的な現実が織り交るのですが、この歪んだ現実の方は肌の上で表現されている彼女だけの「白鳥の湖」の展開を投影しているのではないかと思いました。さらにニナの肌は様々な登場人物によって触れられるんですね。でもニナが受け入れるのは女性の手だけ(だったと思います)。彼女の肉欲的な衝動や狂気は、女性たちの手によって駆り立てられて行く。この女性の手が、彼女の肌の上で語られている物語の登場人物でもあるのでしょう。そして最後にニナは完璧に到達するのですが、でもそれは彼女しか分からない。肌の感覚を知ることができるのは、その人自身しかいないから、です。

いっそモノトーンで撮ってもいいんじゃないかってくらい、画面の中での白と黒とのモチーフの使い分けがきっちりしていました。これはテーマを読み込むのにいい指標になったなあと思います。それとなぜかカメラの手持ち感のあるシーンがやたら多いのが特徴なんですが、現実感のブレを現しているのはとても効果的だなあと思うのですがちょっと多用し過ぎな気もしました。あまり多いと酔ってしまうんですよね…。そしてなんといってもニナを演じたナタリー・ポートマンさんの演技が素晴らしかったです。特に最後の本番のシーンの神経質そうな泣き顔は真に迫るものがありました。