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登山家のアーロンは気ままに人生を楽しんでいた。彼はいつものように、車に自転車を積んで一人荒野に出て、雄大な自然の中で自由を満喫していた。しかし彼は不慮の事故から荒野の割れ目に落ち、腕を挟まれてしまう。人一人、通りかかることのない場所で、彼の壮絶な戦いが始まった。

映画「スラムドック$ミリオネア」のダニー・ボイル監督最新作。「スラムドック〜」もそうでしたが、ストーリーは非常に単純です。たぶんテレビのアンビリバボーとかでやっていそうな話。この映画もきっと大方の人がエンディングを予想できるんじゃないかと思います。が、この監督はそういう「どこにでもある誰でも予想できる」プロットから、とんでもない感動を引き出してしまうんですよね。
アーロンという人物はどこにでもいる若者です。週末に電話をかけてくる母親がちょっと面倒だなって思ってたり、付き合ってた彼女とうまく行かなくて別れちゃったり、アウトドアの豊富な経験がちょっとだけ自己過信だったり。人生のいろいろとちゃんと考えなきゃいけないことから、彼は片手を挙げて背を向けて来た。でもこの事故は、そういう彼の消極的な態度に真っ向からぶつかってくるものだったんですね。そしてそれは避けようもなく、彼は腕をその岩に挟まれて動けなくなってしまう。いつものように片手を挙げて背を向けることができなくなってしまう。この映画は率直にその岩を運命と言ってしまうんですね。ここでおまえを待ち受けていたんだ、と。そして彼はこれまでの人生を振り返り始めます。そのイメージはやがて幻覚と入り交じり、現実が次第に曖昧になっていく。そのイメージの中で彼は未来を夢見るんですね。死ぬ前にはよく過去が走馬灯のように浮かぶなんて言いますが、それをほんの少しオーバーランさせたような。そしてそれが彼に生きることを選択させたんじゃないかと思います。「スラムドック〜」でも、そうでしたがこの監督は、普遍的な出来事の連なりを独自の視点ですくいあげて、一連の数珠のようにつなげているようなそういう感じがするんですね。この映画の場合はその出来事の連なりを先取りして、その未来は絶対にやってくるんだという確信を描いているんだと思いました。

ストーリーが単純なだけに、映像や構成で描く部分が非常に大きい作品でした。画面もほとんどが狭い岩場のシーンが多くて、こんなアングルも限定されたカットばっかりで本当にすごくよく描いているなあと思いましたね。もちろんアーロン役のジェームズ・フランコさん(かなりイケメンだ)の演技によるところも大きいのですが、過去のイメージの挿入や、割れ目に射し込む日の光の描写などで描かれるアーロンの壮絶な孤独感や、渇きや餓えなどの身体的な危機感がものすごく身に迫っていました。何度か「うわああ…」って呟きながら観てたわ。