スーパーエイト

中学生のジョーは仲間たちと8mmカメラで映画を撮ったり模型を作ったりするのが趣味の少年。街の鉄工所で働く母を事故で亡くした後も、彼は悲しみを抱えながらそんな平凡な日常を過ごしていた。ある日映画仲間のチャールズが製作中のゾンビ映画にアリスという少女を誘い、真夜中の無人駅でロケーション撮影を敢行する。撮影は順調に進むかに思われた時、駅を通過した貨物列車に車が激突し、積荷が爆発、周囲は地獄のような有様となった。親たちに内緒で家を抜け出して来た映画仲間たちは一目散にその場から逃走するが、翌日から街は異変に包まれて行く。

親に内緒でなんかする。ってすごく心踊る感じがしませんか。なんの危険もない平和な小さな世界から、何が起るか分からない大きく危険な世界へ、無知というイノセンスだけを持って行く。もう絶対にそんな冒険はできない年になっても、スクリーンで彼らが泣いたり叫んだり吐いたり(笑)しながらがむしゃらに走ったり自転車漕いだりする姿を見るとすごくわくわくしてしまうんですよね。そしてこのJ・J・エイブラムスという監督は、絵的な語りがとても上手い。私は2009年の映画「スター・トレック」くらいしかこの監督の作品を観ていないのですが、この「スター・トレック」の冒頭15分でほとんどセリフなどの語りなしに主人公カーク(後のカーク船長)の誕生と父親のエピソードを見せていて、これだけでぐっと来てしまうくらいだったんですよね。今作でもそういう台詞や字幕での具体的な説明は少なめに、役者さんの演技を含む画面全体で表現していました。特に冒頭の鉄工所(製鉄所?)からジョーの家で行われている母親の葬式のシークエンスは、映画の読み手のことを良く考えた構成ですごいなあと思いましたね。
この映画ってストーリーやキャラクターの関係などは映画「スタンドバイミー」や映画「グーニーズ」を彷彿とさせていて、むしろ積極的にそれらのイメージを借用しているように思えるんですよね。でも全然パクったって感じはしない。それはそういう名作のイメージを崩さないように、この映画の語るべきところへ配置しなおしているから、だと思うんですよ。すごく出来のいいコラージュみたいに。例えば子どもたちだけで出かける、そこに線路がある、なんてまんま「スタンドバイミー」なんですけど、彼らは死体を探す代わりに死体(ゾンビ)を探し求める映画を撮りにやってくる。この微妙にイメージと意味とが重なり合いながら、きちんとこの映画の取るべき姿勢は崩さないんですね。そういう懐かしさと新しさの両方が見えていてすごいなあ、と思いました。
そしてこの映画は死を巡る冒険として描かれているように思いました。「スタンドバイミー」も「グーニーズ」も、子どもたちが死者を捜しに行く、という話だと思うんですよ。この映画もそれをきちんと踏まえていて、母親の死や墓地という死に関する記号をきちんと並べているんですね。あまり書くとネタバレになるのでこの辺で止めておきますが、その記号が導くのは「長い葬式」なんじゃないかなと思います。この映画の冒頭から最後まで、死者を弔う物語だったんじゃないかな。

キャラクターで一番良かったのはメガネの少年マーティンでした。何かある度に吐く(笑)その吐きっぷりがすごくて、最初は地味で目立たなかったのが終盤にかけてものすごく存在感をましてきて、彼が泣き言を言いながら吐く度に応援したくなるようなキャラクターでした。ゲロでキャラ立てるってすごいわ。
どーでもいいことだけど、彼らが撮ってるゾンビ映画の中に出てくる「ロメロ化学」という会社名、ゾンビ映画で有名なA.ロメロ監督が元ネタじゃないかしら。ってこの監督のゾンビ映画は観た事がないけど。(ホラー苦手)