カウボーイ&エイリアン

19世紀末のアリゾナ州。一人の男が荒野の真ん中で目を覚ます。彼には記憶がない。しかし側には女性が写った写真と、右腕にはめられた見たこともない金属の機械があった。

ダニエル・クレイグ主演、ハリソン・フォードも出演してると聞いてなにをためらうことがありますか。わかっております。この映画になんの内容もないことなど、ええ分かっておりますとも。だがしかし、襲って来たごろつきを丸腰で殴り蹴り撃ち殺し、衣服を奪ってリボルバーの状態を静かに確かめた後に、くるりくるりと回転させてすとんとホルスターに納めたダニエル・クレイグのその姿だけでもう私はすっかりと満足したのでございます。ああこれ観に来て良かった。確かに間の悪い映画でございました。アクションシーンなのに一向に危機感が感じられず、盛り上がりを見せるべき右腕の最強兵器の演出も物足りなく、暗闇に没した役者の表情は分かりにくく(けれどダニエル・クレイグハリソン・フォードだけは識別可能。さすがオーラがあるわ)、馬と飛行体という戦力的に大きな差のある組み合わせの厳しさを埋められず、敵の弱点を分析するような知的戦略など皆無であり(あ、ここはむしろ良い所か)、ただただ画面上を人々が逃げ惑い、あるいは戦う姿になんの法則も見出せない、こんな映画がありましょうか。ひどい。金返せ。そう心ないことを言われるのは仕方のないことでありましょう。
けれどそのような映画だからこそ役者固有の素晴らしい容姿や所作を堪能できるのではありますまいか。え、それならグラビアでも見てろと。いやいやそうおっしゃいますな。紙で出来た家のように辛うじて保っているものであっても、映画という形式があるからこそその虚構に便乗して楽しむものでございましょう。最後に崩れ果てた廃屋を訪れて、追憶に小さく微笑んだその惚れ惚れとする後ろ姿。幸福でございます。